異世界で製造業から産業革命をやるってこんなに大変だったんですね

かっぱーさん

第1話 突然の異世界転生・・・



 目を開けると不思議な光景が目の前に広がっていた。

白い空間に小さな机と椅子がちんまりと置いてある。

その向こうには見たことも無い程の美しい女性がいた。

この様な不思議な空間に当然ながら見覚えはない。


 そしてなぜか一人の男がこの白い空間に佇んでいた。

彼は40歳のおっさんサラリーマンで、製造業勤務の何でも屋である。

実は、彼がつい先程まで覚えているのは会社からの帰宅途中であった。

開発から製造、品質保証まで兼任。ブラック企業によくあるパターンだ。


 彼は今日も遅くまで仕事、の予定であったが

労働監督署からブラック企業に認定されて監査対象になったので

36協定の管理が厳しくなり、早めに帰宅しようとしていた。

しかし帰宅途中に彼の頭の中から記憶がなくなっていた。

原因は定かではないが、今ここに立っている事だけが事実だった。


 意識が戻って目を開けてみると目の前には妙齢の美女、

というより人とは呼べない神秘的な空気を漂わせている方が

いつのまにか座っていた。人としての気配を感じさせない。

神々しいオーラを発していて非常に圧迫感を感じる。心理的に恐ろしい。

これはお約束の死後の世界だろうか?


なんて心の中で思っていると目の前の美女から、



「ご機嫌はいかが?」



 と優しそうな声を俺に掛けてきた。

その一瞬で彼は何故か不審に思う気持ちが無くなってしまった。

不思議に思うが、その気持ちの理由に答えが出ない。

 非常に優しそうな笑顔を浮かべながらも、

美女からは厳格な空気が伝わってくる。

とたんに何かを決心したかの様な表情をして彼に声をかけてきた。



「私は転生第5神のメサと申します。

 あなたはお亡くなりになりました。

 これから新しい人生に転生して頂きます」



 彼はちょっと頭に手を置いて考える振りをする。

当然ながら思い当たる節はないが、この状況を説明出来るものは何もない。

冷静に考え直すと不思議とまずこの美女の意見を

聞くしか無いと思う気持ちになった。



「これは死後の世界ですか?

 仏教で言う輪廻転生でしょうか?

 俺はどこかの国に新しく転生するんですかね?」


「いえ、貴方達の言う異世界という、

 違う世界に生まれ変わって頂きます」



 彼は聞きなれない言葉に首をかしげる。

・・・異世界とな。日本ではないのか?

これはちょっと厄介そうな話である。

よくある異世界転生という奴だろうか、と。

 当然、平和な日本の生活に慣れた彼は不信感でいっぱいになる。

危険な世界からは心の底から拒否したい思いが浮かんできた。

面倒事は逃げるに限る。



「貴方の考えている事は筒抜けですよ?

 繰り返し言いますが私はこれでも女神です。

 残念ながら貴方の考えている日本には戻れません。

 お話を聞いて頂きたくお願いします」



 どうやら彼の考えている事はバレバレであった。

仕方がない。彼はとりあえず話を聞く事にした。



「その様子ですと、俺には拒否権はなさそうですね」


「お察し頂けて、ありがとうございます。

 あなたにはこれからとある異世界に向かって頂き、

 世界を救って頂きます」



 しかし世界を救うとはまた難儀な話である。

彼には当然世界を救う力も知恵もない。

ただのサラリーマンである。



「何やら曰く付きですね。

 是非詳しいお話を伺いたいのですが、宜しいですか?」



 自分のこれからの人生を左右する重要な話と一先ず認識して、

彼は慎重に女神様の話を伺う事にしてみる。

SF的な未来や原始時代に送られても困ってしまう。

彼には何も出来ない。



「先方の世界では、色々と危機に瀕しています。

 あなたの力で世界を救って欲しいのです」


「いやそんな無謀な。俺ただのおっさんサラリーマンですよ?

 世界を救えとか、そんな急に言われても・・・」


「別に私は戦争をしろとか魔王を倒せとは言いません。多分。

 実際に魔王は争いばかりで迷惑なのですが、それは別の話です。

 秩序神からの問い合わせではありますが、

 実は私はその世界の何が問題の真因なのか突き止めていないのです。

 その世界に直接介入出来ない立場なのです。

 そこであなたに異世界に転生して頂き色々と生活して頂きます」



 一応説明らしき言葉を女神様から聞くが、

彼には具体的な話の筋が見えてこない。何故?

秩序神?異世界で生活?

彼は何をすればよいのだろうか?

本当に彼が異世界に転生しなくてはいけないのか?



「目的が曖昧すぎませんか?

 その秩序神さん、って方は実際、何に困っているのですか?

 女神様の仰る世界を救うという事は、具体的に何をすれば良いのですか?」



 彼は心配になって女神様に聞いてみた。

しかし女神様は頬に手をおいて考えるそぶりをしながら、話を続ける。

にこやかな笑顔をでありながら、ふと悪ふざけを思いついたかの様な表情をして

彼の発言を無視して言う。



「うん。頑張って現地で調査して下さい。

 まあ、世界を破壊しない程度に活動して下さい。

 貴方の知識と経験と行動力に期待しています。

 それでは宜しくお願い申し上げます」



 女神様のまともな説明が無い発言に戸惑う。

曰く付きだな。そして目的も全て確信犯的な秘密である。

実に恐ろしい女神様であった。


なんて考えていると彼は急に意識が遠くなって・・・



「ああ、私から直接その世界に介入する事は出来ませんが、

 なにか連絡する手段を別途ゆっくり考えますので、

 また後日お話させて下さい、

 という事で貴方の知識でこの世界を宜しくお願い致します」



 そして彼は意識が遠くなっていく最中で、

この言葉だけが脳裏に残ったまま意識を失った。




PS.近況ノートに挿絵を追加

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る