第10話(フィルサイド)少女の苦悩
『これからどうなるのか、少しドキドキしました』
「よ、よしっ!」
昨日投稿した第23話に1件感想がついている。
「いいね!」の数も、第22話とそん色ない。
おおむね好意的な反応に、思わず小さくガッツポーズする。
少し不安だったけど、クラーラさんのアドバイスに従って、人間同士の内輪もめの予兆を匂わせたのが良かったみたいだ。
『ヒロインの魔法使いが民……を救う展開もいいけど、これはあくまでフォーク休めよ。
今後の展開に対する不安と期待……読者の感情を揺さぶるのがコツ、ね』
『ふふっ』
そういって、色気たっぷりに微笑んだクラーラさんの表情はいま思い出してもドキドキする。
「やっぱりプロ(?)のアドバイスは凄いな!」
クラーラさん自体が小説を書いてるわけじゃなさそうだけど、大手出版社の娘としてプロの小説に触れる機会も多かったのだろう。
とても参考になる!
「でも……」
胸の奥にチクリとした痛みを感じる。
「フィルはガッカリしちゃったかな……」
楽しい展開を期待してた彼女はこの展開をどう思うだろうか。
「さ、最終的にはハッピーエンドになるから!!」
フィルには今考えている今後のプロットを話してもいいかもしれない。
「……あれ?」
そう思ってノベルエデンを立ち上げ、”フレンド”欄を開くのだが。
「昨日からずっとログインしてない?」
今までは投稿したらすぐに読んでくれていたのに。
「忙しいのかな……?」
フィルが僕より少し年下の学生だとしたら今は定期テストの期間かもしれない。
生活のためアルバイトもしてそうだったし、多忙なのだろう。
「やばっ、遅刻する!」
のんびりしてたら電車の時間が迫っている。
僕は慌ててかばんを引っ掴むと、家の外に飛び出した。
テーブルの上には置きっぱなしのスマホ。
その日の午後、フィルからのチャットが来ていたことに、僕はうちに帰るまで気付けなかった。
*** ***
「「…………」」
(ふええ、胃が痛い……)
玉座の間に隣接する豪奢な会議室。
王様を始め、イストピアの政治をつかさどる貴族、防衛を担当する王国軍の幹部が一堂に顔を合わせているのだが、会議室を覆う空気は鉛のように重い。
「こほん、まずは報告させていただきます」
このまま黙っているわけにはいかないと、王国軍のトップである将軍が意を決して話し出す。
「レナード公の軍勢ですが、ノルド地峡で魔王軍の
ですが、通話魔法での定時連絡が途絶えたので斥候を放ったところ……」
すがるような視線が将軍に集まる。
主戦論を主張していた貴族たちだ。
「わずかな公の私兵の遺体を回収したほかは、何も残っておりませんでした。
軍団規模のモンスターに背後から奇襲され、全滅したものと推測されます」
認めがたい現実だが、軍のトップとして正確な報告をするべきだ。
沈痛な将軍の表情がそれを物語る。
「馬鹿な……」
「フィルライゼ殿の閃光魔法で、王都に侵攻してきた魔王軍主力の9割を倒したのだぞ!?
ばんっ!
現実を受け入れられないのだろう、目を血走らせながら立ち上がり、樫で出来た机に拳を叩きつける老貴族。
イストピア随一の財力を誇る貴族で、レナード公の後見人を務めていたミュラー侯爵だ。
「残念ながら……」
ごとり
将軍が血で汚れた金属製の兜を机の上に置く。
クロスする双剣の紋章……レナード公の物だ。
「残された戦力では、打つ手がありません」
なにしろ、レナード公が連れて行った軍勢は王国軍の3割に当たる。
精鋭も多く含まれていたのだ。
「くっ……貴公は王国軍のトップを務めるくせに、何たる弱腰!
これは魔王軍を殲滅するチャンスなのだぞっ!」
「もうよい! レナード公の弔い合戦じゃ!
皆も続け!」
「ミュ、ミュラー侯爵、落ち着かれよ!」
「あ、あの~、皆さん仲良くしましょうねっ」
王様も頭を抱えている。
王を上回る財力を持つ貴族筆頭であるミュラー侯爵の暴走を、王様すら止められないようだった。
フィルの発言は誰にも届かない
「フィルライゼ殿! 貴女も出撃の準備をせよ!
明日には出立するぞ!」
(えええええええええっ!?)
もちろん、イストピアの最大戦力であるフィルライゼが放っておかれるはずもなく、
出撃部隊に組み込まれてしまうのだった。
「侯爵! 性急に過ぎますぞ!」
「どうする、このままでは巻き込まれてしまうぞ……いっそのこと……」
「おい、爺はいるか! ヤツに連絡を取るぞ」
(ああっ!?)
会議室に飛び交う怒号。
自分ではどうしようもない状況を前に、半泣きになっちゃうフィルライゼ。
今はただ……無性に彼に会いたかった。
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