第7話 デートのお誘い

 

「うーん、バトル以外の無双か……苦手なんだよなぁ」


 カップラーメンを平らげた後、第23話を仕上げるべく僕はPCに向かっていた。


「錬成系の魔法が使えるようになった理由はどうしよう……」


「あの吟遊詩人に扮した賢者(モブ)が錬成魔法の才能も授けていたってのはさすがに都合が良すぎるし。

 ……っていうか、そんな力があるならお前が戦えって言われるよね」


 ヒロインがドッカンドッカン無双チートするお話になんだから、そんな細かいこといーじゃないかと思われるかもしれないが、さすがに都合よすぎるだろと以前貰った感想が気になっている僕。


「……どう思うかね、ワールドデベロッパー・シュン?」


 にあ~♪


「うおっ!?」


 煮詰まって来たので部屋の中で立ち上がり、マッドサイエンティストムーブをかましていた僕だが、突如窓の外から聞こえてきた鳴き声に思わず飛び上がる。


 にあっ、にゃんっ

 とてててっ


「な、なんだ……猫か」


 この辺りは昔ながらの商店街なので、猫を飼っている家も多い。

 そのうちの一匹が夜のお散歩でもしていたのだろう。


 ビックリはしたけど、独白の返事を貰えた気がして、少しうれしくなる。

 ハイレベルボッチは伊達じゃないのだ。


 ズキッ


「うっ」


 その時、こめかみ辺りに僅かな痛みが走る。


「……これは?」


 ぼんやりと浮かんできたのはおぼろげな情景。

 どこかの草原だろうか。

 ぺたんと座った……わんこ、だろうか?


 足をくじいているのか、助け起こそうと手を伸ばした僕に嬉しそうに尻尾を振ってくれる。

 そういえば、実家で飼っていたモモは捨て犬だったな。

 物心つく前に彼女を拾ったのは僕だったのかもしれない。


「……そうだ!!」


 その時、僕の脳裏に天啓走る。


「ヒロインは、幼い頃に森の中で足をケガしていた小さな妖精に出会う。

 このままではモンスターに食べられてしまう……可愛そうに思ったヒロインは、妖精を手当てし、怪我が治るまで匿ってあげたのだ。

 実はその妖精は大妖精エルフリーデに成長し、彼女に救いの力を授けてくれるのであった!」


「ヒロインのキャラを掘り下げる事も出来るし、いいじゃん!」


 ナイスアイディアを思いついた僕は、あらためてPCに向かい第23話の執筆を再開する。


 どてっ!

(て、てごわいっ!?)


 なぜかフィルがずっこける光景が脳内に浮かんできたが、気のせいだろう。



 ***  ***


「ふああああっ、眠い……」


 翌日。

 深夜までかけて第23話を書き終えた僕は、寝ぼけまなこをこすりながら大学に来ていた。

 起きるのがギリギリになったため、まだ投稿はしていない。


「やっぱお気楽展開すぎるかなぁ」


 スマホに表示した下書きを見ながらぐぬぬと唸る。


 フィルを幻視した僕は、曇らせ展開をばっさりカットし、

『膨大な魔法の力に目覚めたヒロインに、大妖精エルフリーデから錬成魔法のスキルが授けられる』

『魔王軍の攻勢を撃退したものの、荒れ果てた王国を再建するため積極攻勢を主張する上層部を説き伏せ、民衆を救うために街へ』

『救世主様!!とヒロインが持ち上げられまくる』

 というお話にしたのだ。


「むむぅ、爽快感はあるし頬を染めて照れるヒロインは可愛いけれど」


 スマホに保存しているヒロインのイラストを呼び出す。

 創作系SNSで絵師さんにお願いして、コミッションで描いてもらったものだ。


 ふわふわ栗毛にケモミミ、制服風ローブとほぼフィルのビジュアルになってしまったのは仕方ないと言えよう!

 フィルが可愛すぎるのが悪いのだ。

 これでフィルのリアルがネカマとかだったら僕は一生(以下略)


「とはいえ……」


 イストピア・サーガは正統派バトル・ダークファンタジーとして開始したのでバトル展開を入れる必要がある。

 ヒロインが人々を救済するために地方を巡るドサ周りアイドルものになるのはマズいだろう。


「やっぱり伏線入れとくかぁ?」


 単話の締め、今後の展開を見据えた伏線に悩んでいるのだ。


「魔王軍には大打撃を与えちゃったし、やっぱ次の敵は人間内部にいるとか……」

「くふっ」


 最終的にはハッピーエンドにするつもりだが、ヒロインの曇らせ展開も大好きな少々拗らせているダーク♂シュンである。

 身体の奥底に封印したはずの闇の衣が疼き、両手の指を動かそうとする。


「……ねえ」


 とんとん


 指定席となった大講義室の最後列で、危ない妄想に浸っていた僕の肩が優しくたたかれた。


「……へ?」


 少しひんやりしていて、すべすべとした手のひら。

 誰だろうと振り向くと。


「…………(じー)」


「!?!?」


 吸い込まれそうなクラーラさんの蒼い瞳が目の前にあった。

 隣の席に座り、僕の方に身体を乗り出して顔を近づけている。


(ち、近い! そ、それに……良い匂い)


 女の子が好きな香水の事はよく分からないけど、すみれのような上品な香り。

 それに加えてどこか甘ったるい匂いも感じる。


「ほぅ……」


(わ、わわっ!?)


 桜色の唇から漏らされた色っぽい吐息に一瞬でパニックになった僕は、とにかく視線を逸らそうと下を向く。


「!?!?!?!?」


 だがそこには、いつものシルバーのサマーセーターではなく薄手の若草色のワンピースが。

 オタクが好きな清純衣装と言うヤツである。

 だがそれをスタイル抜群のクラーラさんが着ると……。


(うおおおおおおおおおおっ!?)


 弱点属性300%の攻撃を食らった雑魚モンスターのように、一瞬で昇天しかける僕。

 声を上げなかったことを褒めて欲しい。


 だけど、クラーラさんが次に紡いだ言葉はさらに驚くべきもので。


「シュン、この後時間ある?

 Datierung……デートに行きましょう」


「えっ、うええええええええええっ!?」


 思っても見なかったお誘いに、結局叫んでしまうのだった。

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