森の奥

第62話 攻略の鍵は森の奥

王都に行ったのは正解だったな。


エリスやアロンを加えることが出来たのも良かった。


だが、何よりも大きいのが……。


流民1万人の存在だ。


この大量の人がイルス領に流れ込んだことにより、一気に開発が進むことになった。


あまりある木材のおかげで、住宅が一気に作れる。


当面の食料はどうしても隣の領地、ラエルビズ家に頼らざるを得ないところが頭の痛い問題だ。


あの家とは将来的は必ず敵対すると思う。


それはガトートスとの関係でも明らかだ。


奴はガトートスと姻戚関係になり、王宮内での地位を高めることに必死だ。


だが、一方でガトートスからの信頼はイマイチな感じがした。


そこで僕という存在が使えるのだろう。


イルス領という今まで不毛の地とされた場所に新たに街が出来る。


そうなれば、ガトートスの関心はこちらに寄ってくる。


その隙に一気に王宮を掌握したいというのがラエルビズの腹積もりなのだろう。


それくらい、僕にでも分かる。


というよりはラエルビズはあえて、僕にその答えを見せつけている。


なぜなら、僕は無力だからだ。


たとえ、一万人の流民を味方に加えてもたかが知れている。


所詮は伯爵程度の力しかないのだ。


なんとか、ラエルビズ侯爵の想像を超えなくては……


そのために……。


「本気ですか? ご主人様」

「ああ。この街の建設が一段落付いたら、更に奥に向かおうと思う」


このまま、ここで領地開発をしていても頭打ちするのは目に見えている。


辺りに田畑を広げ、商業を興す。


しかし、人口というのは一気に増えるものではない。


流民による人口増加も今回限りと見たほうがいい。


これ以上、ラエルビズが僕に餌を与えるとは思えないからな。


だったら、取りうる手段……。


人口を増やす手段は一つしかない。


……獣人を取り入れることだ。


サヤサの話では、この奥深くには獣人達が住んでいると言う。


その数は軽く一万には超えているらしい。


その者たちを味方につければ……。


ラエルビズ侯爵に対して、対抗することも夢ではなくなるはずだ。


だが、そのためには……。


「サヤサ、協力してくれるか?」

「もちろんです、ご主人様」


唯一の獣人であるサヤサの協力が必要不可欠なのだ。


領地経営の一端はエリスに預けても問題ないほどになっている。


アロンには暫定領都の守護という役割を与え、部下も付けた。


赤蛇隊と青熊隊は領都開発を手伝ってもらうことにした。


「マギー。済まないが、君にも仕事を頼みたいんだ」

「分かっているわ。ロッシュ、絶対に無理をしないでね」


僕は彼女を抱きしめた。


しばらくの別れ……。


彼女には我が領の喫緊の課題を解決するために動いてもらわなければならない。


それは鉱山開発だ。


人口一万人……それを養うだけの基本的な物資はすべて、外からの調達となっている。


その資金が遠くない未来、枯渇するからだ。


幸い、マギーの調査によれば、手付かずの鉱山はたくさんあるということ。


ただ、野獣の出没が多く、鉱山にたどり着くまでも困難らしい。


「大丈夫よ。青熊隊と赤蛇隊が護衛に付くんですもの」

「任せておいてくだせえ。奥方は必ず俺達が守りますんで」


カーゾ……。


「頼んだぞ」

「大将も……必ず、生きて帰ってきてくだせぇ」


僕は馬上の人になった。


もっともフェンリルだけど。


「妾も行くぞ」


……まぁいいか。


ここにいても、特に役立つってわけではないしな。


基本的に、毒しか作っていないし。


「分かりました。マリーヌ様……くれぐれも足を引っ張らないでくださいね?」

「分かっておる。程々にしておくわ」


それが心配なんだが。


僕達はそれぞれの道を進むことになった。


今まで、一緒に行動していた仲間たちがバラバラになる。


それはとても寂しいことだ。


だが、代えがたい喜びもまた感じていた。


この地で覇を唱え、初代様のようにこの国を征服する……。


そんな野望を胸に潜め、この先の深い森へと足を踏み入れる。


「サヤサ。行こうか」

「はい、ご主人様」


僕とサヤサ、それにフェンリル達……。


そして、ついでのマリーヌ様。


その少ない人数で、獣人達を相対しなければならない。


これを見事に治めることが出来れば……


僕は……王への階段を一歩昇ることとなるだろう。


そのためには、ガトートスへの憎しみに一旦は背を向けなければならない。


王都への想いを忘れ、今はこの深い森が僕の主戦場となる。


……。


……。


僕はさっそく、後悔していた。


あの平和な街に戻りたい。


そう思うのは森に入って、すぐだった。


「右、来ます!!」


魔獣の出現だった。


この辺りは境界線で、魔獣はほとんど出ない……。


というのがサヤサの見立てだった。


「たくさん、いるじゃないかぁ!!」

「ご主人様、しっかり捕まっていてください。振り切ります!!」


これから、どうなるんだろうか……。


僕は戻れるのか……。


仲間たちがいる、あの場所に……。


「毒じゃ!! たんと飲むんじゃぞ」


魔女マリーヌは魔獣にも臆せず、毒をバラ撒いていた。


……僕も見習わなければな……。


頑張れ……僕!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る