side エリス③
「王太子殿下を誑かす、この悪女が!」
それが目を覚ました時に掛けられた言葉でした。
今の状況は……
とっさに自分に姿を隠しました。
何も着ていないことに気づいたからです。
あれから何が……
そんなことを考える間もなく、衛兵達に捕まり、牢獄に放り込まれました。
粗末な服と一緒に。
呆然とする私に衛兵はこう言ったのです。
「王太子殿下もバカだな。平民ごときに手を出して、処刑とはな」
処刑?
何かの間違いですよね?
ロッシュ様が処刑だなんて……
私には分かる。
私の体はまだ清いままだと。
あの後、私は何もせずに眠りに落ちたんだ。
だから、ロッシュ様が手を出したなんて、間違いなんです。
早く、ロッシュ様を助けてあげないと。
「衛兵さん! 話を聞いてください!! ロッシュ様は決して、そんなことはしていません。証明だって……出来ます」
この体を調べれば、分かるはず。
そうすれば……きっとロッシュ様の無実に……
「ほお。だったら、俺達に見せてくれよ。ほれ! 股を開け。平民」
……我慢です。
ロッシュ様の無実を証明するためなら、衛兵に股を見せるくらい……
「何を下らぬことをしているんだ? お前らも愚兄のように処刑になりたいのか?」
「はっ! 王太子殿下! しかし、このような場所に何用で?」
ガトートス!!
こいつがすべての諸悪の根源。
こいつの言うことを聞いたせいでロッシュ様が……。
「なかなか、いい目付きをするな。貴族であれば、俺が抱いてやったが……平民には興味がないな」
こいつも屑だ。
貴族の男はどいつもこいつもクズばかりだ。
女をモノみたいにしか見ない。
貴族が何だって言うんですか
いつか、こいつらを見返してやります。
ここを出て、学園に戻って、主席で卒業して……貴族になれば……
「お前は処刑だ」
えっ……。
「今、なんて?」
「当然だろ? 婚約者がいることを知って、王太子殿下を誑かしたのだ。極刑ものだぞ。まったく、悪い女だな……お前は」
ぶっ殺してやる!
絶対に、こいつだけは……。
「おお、怖いな」
私はやってくるであろう死刑宣告への恐怖を忘れるために、ひたすらガトートスを殺す夢ばかり見ていた。
だが、いつまで経っても死刑宣告はやってこなかった。
どうなっているんでしょう……
「衛兵さん。私はいつ、処刑されるのでしょう?」
「ああ? お前の処刑はずっと先だ」
どういうことでしょう?
何かあったのでしょうか?
「衛兵さん!」
「うるさいぞ。全く……」
私は衛兵さんから話を聞けました。
その話を聞いている途中から、涙が止まりませんでした。
……ロッシュ様が生きている。
それだけでも、私は死んでもいいくらい嬉しかったです。
ロッシュ様は奴隷商貴族という地位になったそうです。
数十年、無くなっていた身分が復活したみたいです。
奴隷商は死刑宣告を受けた囚人を奴隷として売買する仕事をするみたいです。
そのため、王国中の処刑を下された囚人は、判決から一年以上、執行が猶予されることになったみたいです。
私もその煽りを受けて、死刑が伸びているみたい。
つまり……
ロッシュ様が迎えに来てくれる……
私を死刑から救ってくれるために……。
私は飛び上がるほど、嬉しかった。
だけど、本当に来てくれるのかしら?
私が原因で、ロッシュ様は奴隷商貴族なんかになってしまった。
王侯貴族としての人生を奪ってしまった。
私は悪女。
そんな私を助ける理由なんてあるのでしょうか?
きっと、奴隷となっても酷い仕打ちを受けてるだけ……
逆の立場だったら、私はそうしていると思います。
でも……
もう一度、ロッシュ様と出会えるなら……
死んでもいいと思っています。
それほど、私はロッシュ様を愛しているのだから。
……どれくらいの時間が経ったのでしょう。
ロッシュ様はいつ、迎えに……
「おい、女。付いてこい!」
ついに死刑がやってきた。
ロッシュ様は迎えには来なかったのです……。
無理もありません。
私が全ての原因なのですから。
ロッシュ様の全てを奪ってしまった。
久しぶりに見る陽の光はとても眩しくて、視界がすべて白んでしまう。
このまま、何も見えずにいればいいのに……
「エリス!!? エリス……なのか!?」
聞こえる……。
幻聴が。
でも、嬉しい。
最後にロッシュ様の声が聞こえて。
「しっかりするんだ! エリス。僕だ!! ロッシュだ」
「ロッシュ……様?」
ゆっくりと見える視界の先には……
「ロッシュ様……お会いしたかったです」
「僕もだよ。エリス。君にどうしても謝りたかった……」
どうして……
謝るのは……
全部、私が悪かったのに……
「エリスさん。ご無沙汰しております」
とても美しい女性がロッシュ様の横に。
でも、自然と嫉妬はしませんでした。
とても自然な二人。
そして、この声は……
「……マーガレット様……?」
「ええ。さあ、行きましょう」
どこに?
そうか……私はロッシュ様の恨みを受けなければならない。
どんな仕打ちでも私は構わない。
「はい。どこにでも……」
「良かったな。マギー」
「ええ、本当に。エリスなら、役に立つはずよ。なにせ、私が見込んだ女性ですもの」
何を言っているのでしょう?
私にはなんとなく分かっていました。
だけど、今まで自分を責め続けていた自分を許せなくて……
でも……
「あら? エリスさん。どうしたの?」
涙が溢れてきて……
この人たちは……私を許してくれているんだって……
「私……ごめんなさい。本当にごめんなさい」
「いいのよ。私もどうかしていたの。全てはガトートスが原因よ。分かっているわね? いい? あいつだけは絶対に許さないわよ!」
「はい!! マーガレット様」
私は変わった。
マーガレット様と一緒にロッシュ様を支える存在に。
そして、ガトートスに復讐するために領地発展の鬼になる。
絶対に殺してやります!!
ガトートスも私をイジメていた上級生も同級生も……全員。
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