第60話 知り合いとの再会

王都での泊まりというのは本当に面倒なことが多い。


王城から出てきたは良いが、泊まるところが全く見つからなかった。


「本当に見つからないわねぇ……」


これで何件目だろうか?


地方のようにお金をちらつかせれば、泊めてくれる……。


そう思っていたんだけど……。


「ねぇ、一層のこと、私の家に行ってみない?」

「家って……オーレック家の屋敷のこと?」


たしかにオーレック家の王都屋敷はかなり大きい。


今連れて歩いている奴隷たちを入れても、簡単に収容できてしまうだろう。


だけど、問題はそう簡単ではない。


マギーが第一王子である僕を嵌めた……。


そう言う理由でオーレック卿は失脚したのだ。


当の僕がオーレック家に出向けば、王都の民は何を思うだろうか?


……ん?


別にいいんじゃないか?


考えてみれば、遠ざける必要はない……気もする。


「やっぱり、やめておこう。行ったことであのバカを刺激するのは今は得策じゃない」


今は慎重に行動するべきだ。


イルス領の開発が進むまでは……。



それまでは……ガトートス、好きに生きているといい。


必ず、復讐してやるからな。


「そう、じゃあ、どうする? 前の家に行きましょうか?」


まぁ、それしかないか……。


結局、王都郊外の小屋で寝泊まりをすることになった。


妙に懐かしくて、つい夜ふかししてしまった……。


「ここを出る時にまた戻ってくるなんて思ってもいなかったわね」

「そうだね……僕はマギーと結婚して戻ってくるなんて思ってもいなかったけどね」

「そう?」


僕達はイチャイチャしながら、夜を明かした。


「お主ら、夜はもうちょっと静かに寝れんのかぁ!!」


かわいいパジャマ姿のマリーヌ様に朝から怒られてしまった。


そんな格好で凄まれても、全く怖くないんだよな……。


軽い朝食を済ませ、再び王都に向かった。


「マリーヌ様はここで奴隷たち泊まっていてくれ」

「よいじゃろ。妾もあまり王都でウロウロはしたくないからの」


僕とマギーの二人だけの王都散策……。


と言いたいところだが、残念ながら奴隷の仕入れだ。


今回はかなりの人数と言っていたからな。


いい人材が手に入ると、領地経営が随分と楽になるんだよな。


「とにかく、現地を任せられる人よね」

「そうだな。まぁ、この点では奴隷商って助かるんだよな」


適材適所。


その言葉は実に素晴らしい。


人を物のように考え、能力にあった場所に所属させる。


そうすれば、確かに効率の高い仕事を実現してくれるだろう。


だが、一人の能力に期待するがあまり、歪な構造になりやすい欠点もある。


そして、その者が裏切れば……。


組織はガタガタになり、大きくなった集団を統率することは極めて難しくなる。


それゆえ、能力が低くても忠誠心が高い人物が評価される。


そして、その者に高い能力の人の手綱を取らせる……。


それがもっとも安心できるのだが……


やっぱり、能力の低い人はそれまでだ。


そのジレンマが統治者に重くのしかかる。


だけど……。


「奴隷紋を受けると裏切らないからね」


これはとても大きい。


絶対に裏切らない……この保証があるのとないのとでは全く違う。


だから、僕は領地開発の人員配備については能力だけに気を配ればいいのだ。


「私は奴隷紋がなくても、ロッシュを裏切ったりしないわよ?」


どうして、最後が疑問形なのかは突っ込まないでおこう。


東門を通過し、いつものように処刑場に向かった。


すでに連絡がいっていたみたいで、囚人たちが列をなして並んでいた。


「確かにすごい人数だな」

「そうね……でも……あれ?」


マギーが指差した先には知っている人の姿が……。


どうして……こんなところにいるんだ。


「アロン!! アロンじゃないか!!」


そう……僕が奴隷商という不名誉な地位に貶められた時、王都で初めて親切にしてくれた人……。


たしかに、あれ以降、全く姿を見せていなかったけど……。


まさか、こんなところにいたなんて……。


「やあ、ロッシュ君。久しぶりだね……元気そうでやっていたかな?」


前に見たときより随分とやつれてしまっている。


でも、なぜ……。


「私は君に酷い扱いをするように命じられていたんだ。上からね。それを守らなかった……」


たった……それだけで……。


どうなっているんだ……。


そうか……僕が奴隷商となってから王宮の人たちの態度は明らかに変だった。


あまりにも酷い扱いをされた。


それは全ては命令が来ていたから?


「僕は貴方にとても感謝しています。出来るなら、貴方を解放してやりたいと思っています」

「ありがとう。君は本当に逞しくなったよ。なら、一つだけ、頼みを聞いてくれないか?」


僕は頷いた。


彼に受けた施しは銀貨数枚と銅貨十数枚……それに買い物をしてもらった。


それだけだったが、あの時の僕にとって救われた気がしたんだ。


絶望の中の光だった。


だからこそ、アロンには何でもしてやりたい。


今度は僕が光になるために。


「家族を……私の家族を……保護して欲しい。きっと、私のように辛い思いをしているはずだ」

「分かりました。すぐに探しに行かせましょう。他には?」


「いや……それで私達はどこに向かうのです? 商会に売るのですか?」


僕は首を横に振った。


「あなた達には僕の領地に来てもらいます。開発に従事にしてもらうんです」

「そう、ですか。私は王都には本当にうんざりしています。出来れば、家族と……」


相当、疲れているんだな。


「分かりました。すぐに手配します。それまでは気をしっかりと持って下さい」

「ありがとう……」


一体、どうなっているんだ?


彼の様に忠誠心のある人物を、このような仕打ちをして……。


あのバカが王の座にあることによる、歪みが少しずつ出始めているのは間違いない。


「ねぇ、ロッシュ」

「どうしたんだい?」


マギーが指差した先には薄汚れた女性の姿があった。


「知り合いかい?」

「分からない? あれ……エリスよ」


信じられなかった。


彼女は僕を嵌めた張本人。


ガトートスと手を組み、僕を奴隷商にした女性。


なぜ……彼女がここにいる?


分からない……一体、どうなっているんだ?


僕はおそるおそる彼女に近づいた。


そして……僕は静かに声を掛けた。


「君はエリスなのかい?」

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