side ガトートス③

「国王陛下がご不在の今、ガトートス殿下を代理王と認めます」


ついにこの時がやってきたな。


長かったが、ラエルビズ侯爵が王宮に出入りするようになってから、俺の権勢は上がる一方だ。


あいつなら、十分にデリンズ侯爵を押さえ込むことも出来るだろう。


しかし、王とは面倒だな。


ほとんど、王宮から上がってくる決済に判子を押すだけの仕事だ。


なになに?


流民が急増している。対応は……。


知るか!


こんな下らないことをするために王になったんじゃない。


俺は王なんだ!


好き勝手出来るんじゃあねぇのかよ。


「ラエルビズ卿がお越しです」

「ああ。通せ」


まったく、毎日足を運んでくるなんて鬱陶しいやつだ。


むさ苦しいおっさんよりも美女を出していたほうが何百倍もマシだと言うのに。


「なんだ? 負け戦の弁解でもしに来たか?」


こいつには困ったものだ。


あんな奴隷商ごときに戦争で負けるとは。


しかも、屋敷までやってきたのをおめおめと逃してしまうとは。


本当に使えない男だ。


こいつも用済みになれば、そのうち……


「これはガトートス殿下……」


このやろう!!


「なんで言えば分かる? 俺は王だ。王と呼べ!」

「これは失礼を……ガトートス殿下?」


ふざけやがって!


でも、今はこいつの力は俺には必要だ。


くそっ!!


王なのに、なんで我慢しねぇといけねぇんだ。


「ラターニャは元気ですか? 殿下には随分と可愛がられていると聞きますが」


へへへ……。


あの年増を俺が可愛がる?


ふざけんじゃねぇ!!


「ああ。地下牢に閉じ込めて、たっぷりと可愛がっているぜ」


悔しいだろう?


かわいい一人娘がこんな扱いを受けているんだからな。


だが、こいつだって俺に文句は言えねぇはず。


「そうですか。可愛がってもらっているなら、結構」


なんだよ、随分とあっさりしているじゃねぇか。


つまんねぇ。


「ところで、いつデンリズを失脚させられるんだ?」

「それはなかなか難しいですな。反デリンズ卿の貴族がだいぶ粛清されましたから。今はこちらの力を増やす時期ですので」


まどろっこしい。


デリンズがいなくなれば、俺がすべてを決めてやる。


この国を完全に俺のものにしてやる。


「ところで、その粛清された貴族の領地で問題が起きているのです」

「あん? そんなの王宮で適当に処理しておけ」


こんなところに仕事の話を持ち出すんじゃねぇよ。


俺は女と女と女以外の話は聞きたくねぇんだよ。


「然様ですか。実は私に腹案がありまして。イルス領で処理させてはどうでしょう?」

「何? それはイルスが困ることか?」

「ええ……かなり」


それはいいな。


「で? 詳しく教えろ」

「はい。実は流民が多く発生しております。それは失脚した貴族が領民を養えなくなったからです」


ほう。


そんなことになっていたのか。


まぁ、流民なんか、どうせ使えないような奴らばっかりなんだろ?


そいつらがどうなろうと知ったことではないな。


おっと……。


「美人は俺のところに回せよ?」


使えなくても、美女ならいくらでも……。


「はぁ。流民は残念ながら、相当な人数に及び、他の領主も手をこまねいている状況で」


だから、何だって言うんだ?


早く、イルスが困っている姿を見せろよ。


「それをイルス領に押し付けてしまうのです。数は一万に及びます」


一万か……それはすごい人数だな。


だが、あいつの領地は今、開拓中だ。


これだけの人数が入れば、一気に進むんじゃねぇか?


「あいつを喜ばせるつもりじゃねぇだろうな?」

「まさか!! ご存じないかもしれませんが、一万人を養うのは相当なことです。ましてや、基盤のない領地では到底不可能です」


それもそうだな。


「それに流民が危機になれば、すべての責任はイルス卿に負わせればいいのです」


ほう……。


なるほど、なるほど。


「それを俺が助けに入れば……最高の展開だな?」

「は? はぁ……それは良きお考えかと」


随分と煮え切らねぇ態度だな。


そうか、こいつは自分でその手柄を奪うつもりだったんだな。


あわよくば、隣接するイルス領も自分のものに……


そんなことをさせてたまるか。


これ以上、こいつが強くなるのは面白くねぇ。


流民が死にかけたら、俺が王国軍を連れて、イルスを滅ぼしてやるぜ。


「殿下!! これで進めてもよろしいですか?」

「ああ。任せるぜ」


少し楽しみが増えてたぜ。


イルスの首……絶対に取ってやるぜ。


「取り込み中、ご報告いたします。イルス奴隷商、只今、王都に入ったとの報告が入っております」


ほう。


どれ……久しぶりに王として、末端の貴族に顔を見せてやるかな。


「ラエルビズ。お前も来るか?」

「いえ、私は別件がありますので」


詰まんねぇやつだ。


俺がイルスをいたぶるところを見せてやりたかったのにな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る