side ガトートス②
くそっ!!
ロッシュを奴隷商に落としたのはいい。
これで俺の地位は揺るがない。
王もぼんくらだ。
だとすると、王宮だけが心残りだ。
オーレック家とデリンズ家。
この中の悪い両家の片方に俺が肩入れすれば、全てはうまく行く……
そのはずだった。
デリンズ家には俺の子飼いのアンドルがいる。
あいつは後継者だ。
そうすれば、意のままに操れる。
だからこそ、俺はオーレック家を糾弾した。
娘がロッシュを陥れようとしたと。
理由は何でもいい。
とにかく、これを主張し続けた。
おかげでオーレック家は王宮から姿を消した。
デリンズ家は俺の味方になるはずだ……
そのはずだったんだ。
それなのに……
「アンドルが奴隷落ちだと!? どうして、そうなった!」
くそバカアンドルが!
挙兵をした挙句、完膚なきまでに弟にやられただと?
早まりやがって!!
しかも、ロッシュに奴隷にされるなんて……本当に最悪だ。
くそっ!!
俺の計画が狂っちまうじゃねぇか。
どうすりゃあ、いいんだ……
こういう時は女を抱いて、気持ちをリフレッシュだ。
……。
最近、王宮の動きが可怪しい。
デリンズがオーレックを戻そうとしている。
犬猿の仲ではなかったのか?
分からない。
俺の知らない何かが動こうしている。
くそっ!
……。
王宮での工作は失敗だ。
デリンズは俺に対して、明らかに翻意した。
俺の息がかかった貴族共も少しずつ粛清されていっている。
これでは俺の立場が危ない。
だが、俺はやはり神に愛される男なんだ。
まさかの登場人物についニヤけてしまう。
「なにっ? ラエルビズ侯爵が?」
まさかのラエルビズだ!!
王国最強の兵団を抱える軍部最高の名門。
それが俺に用があると……。
「これはガトートス様。ご機嫌はいかがですかな?」
「ふん! まぁまぁだな」
心中は穏やかではない。
さっきも王宮内の会議で俺の子飼いが一人、糾弾されたのだ。
「それは良かったです」
「それで何用なのだ? ラエルビズ卿」
こいつの腹はどうも見えない。
軍人という気質というのか、表情が一切変わらない。
「実は……我が娘、ラターニャのことです」
娘?
ああ、確かにいたな。
だが、俺より十は上だったと思うが。
「それがどうした?」
「どうでしょう? 我が娘を嫁にもらってはいただけないでしょうか? 多少は歳が離れているとは思いますが」
嫁?
このおっさん、俺に年増を寄越そうとしているのか?
「ふざけるな!」
俺は若くて、張りのある女が好きなんだ。
そんなババァを……
「何か? 我が娘に問題でも?」
くそっ!!
こええな。
「いや。だが、俺とは歳が違いすぎる。無理だな」
「そうですか……しかし、それで本当によろしいのですかな?」
なんだ、こいつ。
俺にそんなに嫁にやりたいのか?
下らねぇ。
「問題ないね!」
「そうですか……ならば、この話、ロッシュ様にお持ちしましょう」
ロッシュ?
なんで、あいつの名前がでてくるんだ?
貧乏貴族になりさがった奴に……
「ちょっと待て、どう言う事だ?」
「我が国は今、変わろうとしています。王宮は機能せず、王家も酷い有様です」
何がいいたいんだ?
「私はこの国を救いたいのです。我が家に流れる王家の血が現状を許さないのです」
「それと娘を嫁にやる理由が分からねぇ」
侯爵がぐっと顔を近づけてきた。
「私は王族に戻りたいのですよ。そのためには王族の血が必要だ。それが在野に転がっていても、関係ありません」
こいつ……国を乗っ取るつもりか?
俺には分かる。
こいつには俺と似たような臭いを感じる。
優れた才覚と洞察力、そして大胆さを持つ男だと。
だが、俺も王になる男だ。
こいつの好き勝手にはさせない。
「分かった。お前の娘を嫁に貰おう。ただし……」
その嫁だけっていうのは勘弁だ。
他の女も抱かせてもらうぜ。
「分かっております。ガトートス様のお気持ちは」
分かっているじゃねぇか。
やはり、こいつも女好きだな。
「それでは、私は準備があるので。そうそう、ロッシュ様はオーレック領に滞在している様子」
あの野郎、そんなところまで行ってやがったか。
さっさと野垂れ死ねばいいものを。
しかし、イルス地方まで目と鼻の先だ。
入られるのと、ちょっと面倒だ。
こいつを使うか。
「ラエルビズ卿。ロッシュが消えてくれると助かると思わないか?」
「ほう……なるほど。王家の血筋は少ないほうがいいと……」
何、訳の分からないことを言っているんだ?
「まぁ、そういうことだ。婚礼の約束はしてやる。卿も自分の仕事をやれよ」
「承知しました。吉報をお届けしましょう」
これでロッシュは終わりだ。
飢えて死ぬのも最高だが、兵士に串刺しにされるのも悪くねぇ。
本当に俺は神に愛されているぜ!
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【★あとがき★】
オーレック公爵領編が終わりです。
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