第33話 奴隷商、野盗を美青年に変える

カーゾ率いる野盗30名が奴隷として僕に従うことになった。


「俺達、売られないよなぁ?」


そんな言葉が囁かれていた。


不安になるのも無理はないな。


だが、商会に売ったとしても男なら金貨7枚……。


あれ?


30人ということは金貨210枚になるのか……


仕入れがタダだと、凄く稼げるのか?


考えてもいなかったな。


「姐さん!! 旦那がニヤついてやすが、本当に大丈夫なんですかい?」

「きっと……大丈夫よ!!」

「姐さぁん」


まぁ、冗談はそれくらいにしておこう。


流石に処刑人以外を売ろうというつもりはない。


それに彼らはマギーの家臣のようなもの。


手を使えようだなんて考えは微塵もない……多分。


「安心してくれ。これからは僕の指示ではなく、マギー……マーガレットに従うように」

「ダメよ! 私の全てはロッシュのものよ。この馬鹿共はロッシュがこき使って」


……なんか、慣れないな。


まぁ、これもマギーの一面なんだろうか。


僕はどんな彼女でも受け止めてやる。


「分かった。じゃあ、君たち……カーゾと言ったか。隊をまとめてくれ」

「へい。ところで……」


何かあるのか?


随分と神妙な顔をして……


「あっしらの別働隊が戻ってこねぇんです。どっかで道草をしているのか……探す許可をくだせぇ」


別働隊?


「聞くが、森に忍ばせていたのか?」

「へい。あっしらに気付いたら、間違いなく、あの小道を使うと思って伏せて待たせたんで」


カーゾ……なかなかの策士だな。


策は失敗したが、素晴らしい作戦だ。


もっとも、マリーヌ様の毒と惚れ薬で壊滅してしまったが……


なんか、勇んで攻撃してきた相手にこんな戦い方をして本当に済まないと思っている。


「カーゾ。済まなかったな」

「はい?」


まぁ、分からなくてもいい。


ただ、これが僕の素直な気持ちだ。


「僕達も一緒に行こう。まだ、森の中にいるはずだ」


マリーヌ様の毒は致死性のものではなかったみたいだ。


一種のしびれ薬のようなもので、時間が経てば元の状態に戻るみたいだ。


結局、カーぞの説得により、全てが僕の奴隷となった。


全部で50人……金貨350枚……か。


「旦那ぁ。その顔はお止めくだせぇ」


変な顔をしていただろうか?


まぁいいか。


「これより君たちには野盗をやめてもらう」

「……」


沈黙が流れる。


「そして、これよりロッシュ=イルスの臣下として働いてもらう! 異議ある者はいるか?」


奴隷紋をしている者が逆らえる訳がない。


それは分かっている……が、このセリフをやってみたかったのだ。


「カーゾ一同。依存はありません。ただ、条件をいくつか……」


彼らは結構しっかりしていた。


給金は月に金貨5枚。


休みも欲しい……住処も用意してもらいたい……装備も僕持ち……。


……やっていけるだろうか?


収入も怪しいのに、奴隷として雇ったのは失敗だったんだろうか?


いや、もうちょっと交渉を……。


結局、安定収入が得るまでは衣食住を保障することを条件に契約することになった。


彼らの仕事は諜報と護衛ということになった。


野盗として長い経験が活かせると思ったからだ。


「これからよろしく頼むぞ」

「へい。それで、これからどこに向かうんで?」


それは悩みの種だ。


目的であるドーク子爵が僕を狙っているという話があるからだ。


とはいえ、子爵領を横切って行かなければ、とてもイルス領にはたどり着けない。


攻撃の意思があるなら、その時点で僕達の命運も尽きるというものだ。


さすがに野盗を護衛にしたとは言え、相手はあのドーク子爵だ。


勝ち目を見つけることの方が難しい。


だったら……


「ドーク子爵に会いに行く」

「本気ですかい? 死ににいくようなもんですぜ。なにせ、旦那は奴隷商だ。ただでさえ、憎まれているのに」


返す言葉が見つからない。


だけど……


「僕はなんとしてもドーク子爵から真相を聞かねばならない。それは敵対してもだ。彼を敵にしたままで放置するほうが危険だろう」


それにシェラの薬草を売らねばならないからな……。


「はぁ……旦那が言うなら、あっしらは守るだけですが……」


話は決まったな。


ん?


「マギー、どうしたんだい?」

「頼みがあるんだけど……」


それは本当に他愛もない話だったが……


僕の一存では決められない。


カーゾ達に話を持っていくと、簡単に了承してくれた。


「別に構わないですぜ……だけど、何のために……」

「決まっているじゃない。あなた達がロッシュに従うのに相応しくないからよ」


なんか、物凄く可愛そうなことを言われているな。


まぁ、物騒な顔をした連中であることは間違いないが……


本当にいいんだろうか?


「さあ、ロッシュ。やって」

「分かった……」


まずはカーゾからだな。


顔を触り、奴隷紋を反応させる……。


顔の造形が少しずつ変わる。


ちょっと、気持ち悪いな。


「旦那……どうですかい? 男前になりました?」


なったというか……やり過ぎだな。


汚い50歳過ぎのおっさんだったが……


30最そこそこの青年がそこにはいた。


ただ、本当に分からなくなってしまうから、頬の大きな傷だけは残しておいた。


この罰……というのか分からないが、やりたい者だけに施すことにした。


最初は嫌がっていたが、カーゾの変わり様を見て、全員が罰を受けることにした。


「これでいいわ。これそこ、ロッシュの側付きにぴったりよ。それと……」


全員、赤い髪だ。


燃えるような赤髪がマギーの希望だったからだ。


でも、これって……


「マギー、まさか……」


僕は王国建国記に記されていた伝説の部隊を思い浮かべていた。


初代国王は、赤髪の男たちに赤い鎧を身に纏わせ、各地を転戦した。


今でもその名残で、王国騎士団の精鋭部隊は赤鱗隊と呼ばれている。


赤い鎧がまるでドラゴンの鱗のように見えることから名付けれたみたいだが……。


まさか、これを再現するとは……。


マギーは何を考えているんだ?


「あとは服かしらね。さすがにみすぼらしいわよね。ちょっと、サヤサ!」

「なんですか?」


何をするつもりだ?


「ちょっとデリンズ領に戻って、服を持ってきてちょうだい」

「えっと……分かりました」


いやいやいや。


ここからどれだけの距離があると思っているんだ。


「要らない! そんなお金がどこにあると思っているんだ!? 今はいい!!」

「何を言っているのよ!? こんな格好の奴隷を連れていたら、恥ずかしいわよ」


……ダメだ。


マギーは変わってしまった。


これも惚れ薬のせいだろうか……


僕はマリーヌ様を睨むが、そんなものはどこ吹く風だ。


まぁ、いい。


マギーはマギーなのだ。


どんなに変わっても……学園の時のような後悔はもう二度としない。


彼女は絶対に手放さない。


何にしろ、ここに誕生した。


赤髪の部隊……元は野盗だが、ここいるのは…・・


まるで神官のような清廉な顔をした男たちが集っていた。

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