第17話 奴隷商、頂上決戦を見つめる

サヤサの一言が問題だったみたいだ。


なんてことはない場面。


何気ない一言だったのだろう。


「ご主人様は私がお守りします」


その言葉に逆鱗に触れた女性が二人いた。


マギーとシェラだった。


「新人はこれだから。ロッシュにとって一番は私よ!!」

「狐が偉そうに。エルフこそ、最高の戦士」


……微妙に噛み合ってない気もするが、ともかく模擬戦をするということで決着した。


場所は小屋の目の前。


高い木もあるし、拓けた場所もある。


戦場としては申し分ないだろう。


僕も一応は王族として士官の真似事程度はしてきた。


戦場での軍の動かし方や地理の見分け方……言えば、多岐にわたる。


なんにせよ、ここで彼女たちがどのように戦うかは少し見物だ。


……ところで、


「マギーは参加しないの?」

「もちろんよ。考えてみたら、私、戦えないもの」


……一応、マギーの擁護をしておこう。


マギーは決して、戦いに不利な力を持っているわけではない。


彼女にはオーレック家で代々受け継がれてきている土魔法がある。


オーレック領は王国有数の鉱山を有している。


流通している主要な金属の殆どが算出されるという具合だ。


だが、地層が複雑で様々な金属が混ざりあっている。


そこでオーレック家は金属の選別に優れた土魔法を特化させることで家を繁栄させた。


さらに、マギーの潜在的な能力は学園でも評判になるほどだ。


だが、彼女の土魔法は戦いにおいては防御に適していても、攻撃ではあまり手段がないのだ。


……まぁ、決してマギーが使えないと言うわけではない……


話はさておき……。


「マギーはどっちが強いと思う?」


獣人とエルフとの戦い。


王族として王都にいては、決して見られない戦いだろう。


「サヤサは怪力が売りの接近戦。シェラは弓での遠距離よね。分からないわ」


あれ?


こういうのは興味がないと思っていたが、意外と白熱している?


「当たり前よ。コロシアムは毎週行っていたもの」

「へぇ……」


知らなかったな。


マギーは血の気の多いタイプのようでした。


「始まるみたいだな」


最初に動いたのはサヤサだった。


一気に間合いを詰めるようにシェラに突進をする。


一方、シェラに動きはない。


弓を背に引っ掛けたまま、取る気配もない。


迫りくるサヤサは豪快なパンチを繰り出した。


シェラはそれを難なく避け、一定の距離を保ちながら、後ろへと引き下がる。


サヤサの攻撃は止むことはない。


だが、シェラは避ける一方だ。


これって……。


徐々にサヤサの動きが鈍くなっていく。


次第に満足にパンチを繰り出すことも出来ずに座り込んでしまった。


「はぁはぁはぁ。参りました」

「そう。私の勝ち」


どうやら決着はついたみたいだが。


「これで終わりなのか?」


つい、聞いてしまった。


はっきり言えば、消化不良と言った感じだ。


シェラの動きはたしかに素晴らしかった。


サヤサの豪快な攻撃を皮一枚で避ける姿は美しさすら感じる。


しかし、シェラは攻撃を一切せずに、相手の体力切れをさせるだけだった。


それがなんとも……


「当然。私の獲物は弓。接近戦では無理。サヤサとの距離を離すのも無理。だから、避けに徹した」


……たしかにそんな戦い方もあるのか。


「エルフ、常に多対一に持ち込む。一人は囮。もう一人で狙撃する。それがエルフ流」


「そういうことか……」


実に奥深い話だな。


「サヤサが接近戦格闘、私が遠距離狙撃……完璧。一人で戦うのは間違い」


……これは脱帽だな。


僕は重要なことを忘れていた。


どうしても個人の力の優劣を考えてしまう。


どちらかが強いか……


しかし、戦場においてはここの動きにこそアドバンテージが発揮される。


なるほど……接近戦のサヤサと遠距離戦のシェラか。


素晴らしい組み合わせだ。


でも……


「どっちが強いか? みたな話をしていなかったか?」

「当たり前。獣人はエルフに勝てない。身の程を知らせただけだ」


「な、なんですって!? もう一度言ってみなさい! 獣人が劣るだなんて……そんなことはないわ!」


次はシェラの一言がサヤサの逆鱗に触れたようだ。


「もう一度よ。戦いなさい!」

「まだ分からないのか? 何度やっても無駄」


いよいよ、再戦のゴングが……


「お主ら、何をしておるんじゃ! 大切な薬草を踏むんじゃない!!」


その瞬間、猛烈な風が僕達を襲った。


身動き一つ取れない……


死を覚悟するほどの……


「たわけが!! もう二度と下らないことはするでない!」


どうやら、最強王座はマリーヌ様だったみたいです。


僕達は気絶した……。


「今日はいい日だ」


次の日……王都を発つ日だ。


薬草ギルドのギルマスに頼み……いや、マリーヌが脅し取ってきた立派な馬車が目の前にある。


シェラは皆の荷物を詰め込んでいる。


僕はカバン一つ程度の身軽だったが……


「マリーヌ様? これは?」


すでに馬車に詰め込まれ……いや、設置と言ったほうがいいか。


大掛かりな実験器具が見えていた。


「当然じゃろ? 妾の目的を知っていれば、これが何のなのか」


そこに疑問を持っているのではない。


なぜ、こんな物が乗っているのかだ。


「これからの旅は長いんですよ? こんな大きなものがあると馬への負担も大きいし……」


「気にするでない。このメッシーニ号はその辺の馬とは格が違うのじゃ。これくらいの荷くらい」


メッシーニ?


なんとも変わった名前の馬だな。


いや、そうではない。


たしかに馬体はとても大きく、王都でも滅多に見かけないほどだ。


だが、意見は変えるつもりは……


「道中で売る薬草……これがないと作れないと知ったら、どうじゃ?」


……。


「よし!! 皆、出発だ!!」


情けない……


だけど、しょうがないよな?


薬草販売はこの旅でもっとも重要な資金源だ。


それを絶たせるわけにはいかない。


「ロッシュは子供には甘いのね。そういうところも好きよ」


決してマリーヌ様は子供ではないが……。


「僕もマギーが好きだ」

「ふふっ。私も、よ」


……


「ほれ。行くぞ。バカどもが」


僕達はついに王都から離れる。


マギー、シェラ、マリーヌ、サヤサの四人と仲間と共に……


道中、シェラと目が合った。


聞いてみたいことがあったんだ。


「本当にこの機材は必要なのか?」

「……エルフの薬草は切る、擦る、絞る、混ぜる、煮るの5工程」


へぇ……


つまり?


「要らない。これはマリーヌの趣味」


引き返せないほどの距離で聞くものではありませんでした。


「マリーヌ様。次からはもっと話し合いが必要をしましょう」

「イヤじゃ。お主はケチじゃからな」


嫌なレッテルを貼られてしまった。


断じて、節約とケチは違うと思う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る