第14話 奴隷商、魔女を押し付けられる
僕とマギーの薬指には指輪が嵌められていた。
これは義父上が馬上の人になった時に渡された小袋に入っていたものだ。
白金貨が5枚、それと一対の指輪。
白金貨は王国で流通する貨幣では最高の価値がある。
金貨にして1000枚分の価値だ。
それが5枚。
……義父上。十分すぎます。
だが、マギーを釘付けにするのは白金貨の方ではなかったようだ。
宝石がついていない、シンプルなリングだ。
色は銀色で、何の金属かは分からない。
だが、妙な美しさがあった。
「これって……お母様、ありがとうございます。親不孝な私をお許し下さい」
一対の指輪を見て、マギーが急に泣き出した。
……マギー。
「これはね、お母様が私の結婚式に渡そうと思って用意していてくれたものなの」
義母上……指輪も満足にマギーに与えられない僕を許してくれ。
マギーは指輪を僕に手渡してきた。
「ねぇ、付けてみない?」
それって……
「ああ。でも、この指輪……マギーの指には大きくないか?」
「いいから! 嵌めてみて」
よく分からないまま、指輪をマギーの左薬指に嵌めると輝き始めた。
徐々に輪は小さくなり、ちょうどいいサイズになってしまった。
「これは魔道具の一つよ。といっても別に何も付与されていないわ。でも一度嵌めると、相手が死ぬまで外れないのよ」
……ん? なんか、呪いのアイテムのように聞こえてしまうのは僕だけか?
嵌めたら外れないって……。
まぁ、僕はマギーと一緒にいると誓ったんだ。
指に嵌めることくらい何の躊躇もないぞ。
「これで私達はどこから見ても夫婦ね」
「うん。なんだか恥ずかしいな。でも、嬉しいよ。マギーとこういう時を過ごせるのは」
僕達は互いに口を重ねた。
一生、彼女を守っていくと誓って……。
余韻が体を駆け回っているときに、ぽとりと何かが落ちる音が聞こえた。
小袋から何かが落ちたみたいだ。
これって……折りたたまれた紙切れ?
中を覗いても、訳の分からない数字が書かれているだけの紙切れだった。
マギーもこれを見て首を傾げていた。
「何か意味があるのかな? 暗号?」
「さあ? 何かのメモを間違えて小袋に入れたのかしら? お父様は昔から……」
それはないだろう。
きっと意味があるはずだ。
もしかしたら、ガトートスの牙城を崩すきっかけになるかもしれない。
大切に保管しておこう……。
さて、大金を手にしたところでやっておきたいことがいくつかある。
まずは薬草ギルドだ。
シェラを連れて行くからギルドの退会をしなければならない。
「そこをなんとか……」
ギルマスには散々抵抗された。
どうやら新薬の開発が後一歩で完成しそうだというのだ。
それにはシェラの協力が不可欠……。
「それってあとどれくらい?」
「一年は……」
話しにならなかった。
王都に一日長くいれば、それだけ危険が増すのだ。
一年なんて待つわけにはいかない。
「ぐぬぬぬ……分かりました。ただ、退会だけは。これからもシェラさんの知恵をお借りしたいのです。もちろん、対価は如何様にもお支払しますから」
それくらいならば……と同意するとギルマスが急に立ち上がり、扉を開けた。
「あっ、マリーヌ。研究は?」
扉の先にいた少女に一番に反応したのは、意外にもシェラだった。
「シェラお姉様。ちょっとお聞きしたいことが」
それだけを言って、なにやら、二人で話が盛り上がり始めた。
内容は……おそらく薬草についてだろう。
よく分からないけど。
だけど、なぜマリーヌと呼ばれた少女がここに?
「実はロッシュ殿にお頼みしたいことがあります。どうか、孫娘を……マリーヌを連れて行ってはくれないだろうか?」
ん? どこに?
その辺のお買い物に付き合って……とかじゃないよな?
「お断りします」
当然だろう。
これからの旅は決して安全ではない。
ましてや、少女を連れ回すような事は出来ない。
僕ははっきりと断っていたのだが、ギルマスは一向に折れる気配がない。
むしろ、おかしなことを口にするようになった。
「実はマリーヌは孫娘ではないのです」
……物凄く嫌な予感がする。
「我が家系は三十代を越しております。代々、薬草研究をしておりました」
ふむ。やはり、ギルマスともなると、そのような家系出身なのだと妙な所で感心してしまった。
「研究の内容はずばり、何人も死ぬ薬なのです」
……聞いても良かったのだろうか?
警備隊に通報したほうがいい話を聞いているな。
「一つ聞いてもいいか? 死ぬ薬なら、いくらでもあると思うが?」
自分でも愚かしいと思うが、何故か質問をしてしまった。
「もちろんあります……しかし、今現在あるどの様な薬でも死なぬ者がいるのです」
それって……
「マリーヌ様です」
分からない……この少女がなんだって言うんだ。
「彼女は我が家系の初代の姉に当たるお人なのです」
ちょっと待て。
さっき、三十代を越す家系だと言ったな。
だとすると、少なくとも600年は経っているはずだ。
我が王国が建国するよりも古いということだ。
この少女が600歳以上?
とても信じられない。
僕が訝しそうに少女を見つめていると……。
「無理もありません。ですが、真実なのです。彼女の存在は我が家系の語種となっておりますから」
といっても信じきれる話ではない。
「だが、分からない。ギルマスは死ぬ薬を作っていると言ったな。マリーヌを殺す為ということか?」
「はい。その通りです。マリーヌ様は我々子孫に死ぬことを所望しておられたのです。ですが、不甲斐なく、今まで作ることも叶わず……」
……どうしてものか。
「私がマリーヌ様をロッシュ殿に託す理由は薬草開発の事だけではありません」
どういうことだ?
「マリーヌ様に生きる楽しさを与えてほしいのです。それを頼めるのはロッシュ殿以外にはおりません」
……そこまで僕を評価していてくれたとは……
思わず、涙が出そうになる。
「シェラさんのご主人であるロッシュ殿に」
……ん?
シェラ?
あれ、なんだろう。
僕、関係あるのか?
「話は聞いた。だが、断る!!」
「なんで!? ここまで正直にお話したのに。後生ですから。厄介なマリーヌ様を……あっ」
ギルマス、本音が漏れているぞ。
幸い、マリーヌの耳には届いていないみたいだ。
「分かりました。では、とっておきをお出ししましょう。これからの旅路には必ず必要になると思いますので」
……僕はギルマスの手を握っていた。
契約成立だ。
マリーヌを旅路に加えることにした。
「よろしくの。ロッシュ」
「ああ。マリーヌ」
「若造が! マリーヌ様と呼ばぬか。我はお前らの何倍生きていると思っておるのじゃ」
見た目は少女ですが、とても面倒くさい人みたいです……。
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