第16話 夫への仕返しを考えついたの


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 ――夫への仕返しを考えついたの。とっておきのやつを。それにはある協力者が必要だった。


 というのもね、彼は妻を愛していないから、私がしたことで多少苛立つことはあったとしても、ショックを受けるようなことはないわけでしょう?


 人間、どうでもいいと思っている相手から、何を言われたとしても、そよ風が吹いた程度にしか感じませんからね。(少なくとも、私はね)


 では一体誰なら、夫に多大なダメージを与えられるのか? ――答えは、菫色の瞳を持つ、彼のかつての愛人よ!


 冴えているわ、私! 今からもう、ウッキウキしちゃうわぁ!


 思い立ったら即行動がモットーな私は、夫のウィリアムを連れて、実家に顔を出してみることにしたの。


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 首に縄を括って引きずって行かないとだめかなと思っていたのだけれど、ウィリアムは意外とあっさり同行を了承した。


 ――え、いいの? クリスティはこれにまず驚かされた。そして一拍置き、なるほど、なるほどね! と合点がいったのだった。


 彼、まだリン・ミッチャムに未練があるんだわ。一目でいいから、会いたいってわけなのね。彼女はもうクライヴのものなのに、引きずっているんだぁ?


 やだぁ……この人、可哀想……クリスティは憐みの気持ちが芽生えて、つい同情の眼差しでウィリアムを眺めてしまった。


 馬車の対面席に腰かけた彼が、クリスティから向けられた生温い視線に気付いたらしく、軽く眉根を寄せる。


 彼は相変わらず端正な佇まいだった。金色のさらさらの髪に、青灰の綺麗な瞳。


 いつもどおりといえばいつもどおりの見た目なのだが、こうしてノリノリで(?)クォーリア侯爵家に向かっているくらいだから、クリスティが気付いていない部分で、とっておきのお洒落をしているのかもしれなかった。


 よく分からないけれど、カフスボタンがお気に入りのものであるとか、そういうたぐいの。


「……なんなんだ、クリスティ」


「なんなんだ、と言われましても」


 クリスティはお澄ましモードで答えたものの、口元がもにょもにょと含み笑いで引き攣ってしまう。


「なんか馬鹿にしているだろう」


「被害妄想よ」


「小憎らしい女だな。いい加減、尻を叩いてやりたい」


 尻を叩いてやりたい、ですって! クリスティはもう我慢できなくなって、ぶふぅ、と吹き出してしまった。上半身を倒し、ひとしきり爆笑する。


「ひー、お腹痛いよぉ! 謎のタフガイ発言、炸裂ぅ!」


「……殺したい」


「ひー、もう、やめてー! 妻にすごむ男! ださぁ!」


 この人、妻に威張っているけれど、これで愛人に未練タラタラなのよ? 笑えるわぁ!


 車内の壁を叩きながら爆笑していたら、御者が『止まれ』と言われたのかな? と勘違いして、馬車を止めてしまうという一幕があった……。


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