第三章 神門
1
……やがて四方を風の壁が取り囲み、島はとうとう、周囲から閉ざされてしまった。既に太陽は昇っていたが、暗雲立ち込める村は、夜のように真っ暗だった。
断崖に激突する荒波が、建物を薙ぎ倒す
六門島に取って風は災厄であり、同時に神の恩寵である。
毎年やってくる凶風は、毎年島の豊穣を根こそぎ破壊していく。
と同時に、船は風が無くては動かない。また、風向き次第で流れ流されやってくる漂流物は、島民に取って時に貴重な資源となった。
人々は風を畏れ、そして崇めた。
畏敬はやがて信仰となり、神具が、儀式が、祭壇が、人々の想いが確かな形となって具現化されていく。
吹き荒れる風の中。仮面の少女が朽ちた鳥居の上に立ち、切り立った斜面を見下ろしていた。
その視界の先、仮面の向こうには、少年少女が写っていた。
同い年くらいの、肌の浅黒い少年と白装束の少女。2人とも、服は濡れそぼり、小動物のように震えていた。
「……ね? もう戻りましょう」
少女が今にも泣き出しそうな顔で少年に囁いた。
「大丈夫よ……私、神の子だもの。ただ、捧げられるだけなの。神様に」
「嫌だ! そんなの! 神様なんて……」
雷鳴が辺りに轟いた。2人の声が、風の音が一瞬にして掻き消される。地面が突き上がるように揺れ、白い光が、闇を切り取って蹲る2人を照らした。
「……はずだ」
少年は真剣な表情で少女に囁いた。
「何か、別の方法が。レオナじゃなくて良いじゃないか。誰か別の奴が、身代わり羊になって……」
再び雷鳴。
「……れれば」
「そんなこと……できないわ」
「だったら……」
悲しげに首を振る少女の手を、少年が空いた手で握りしめる。雨風が強くなってきた。2人は寄り添い、2人にしか聞こえない声で、お互いにお互いの気持ちを確かめ合った。
仮面の少女が、そんな2人の様子をジッと見下ろしていた。
少女の手には、薙鎌が握られている。短いノコギリのようで、刃の部分が膨らんだ、風の神・龍田神の神器である。
「そんなこと……」
もう一度白く照らし出された少女の顔に、怯えの色が走った。
「大丈夫……大丈夫さ」
少年は力強く、自分に言い聞かせるように、何度も頷いた。彼の手には、血のついた鉈が握られていた……。
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