第23話 シキセマ

 周東兄弟は、地下に通じる道を探して学園の中を彷徨っていた。


「正直、どーなんだよ」

「どうって?」


 壁をこんこんっと空洞音がないかチェックしながら廊下を進むさとるに『死期』が現れないか気を向けながら背後を歩く聡は尋ねた。


「あの連中と話して、さとるが知りたかったことは知れたわけ?」

「うん、十分情報は得られたよ。僕が知りたかったことは大抵ね」

「へえ、で? 平行線は変わるの?」

「変わる。きっかけがあれば」

「きっかけ?」


 聡が首を傾げるとさとるのポケットで振動を知らせる。

 スマホのディスプレイには、自分たちが所属している組織からの連絡だ。


「もしもし。さとるです。……はい。わかりました。ありがとうございます。こちらは、このまま調査を続けて、合図を送ります」


 短い会話を終えてスマホをポケットに入れて聡を見る。


「僕が考えていた通りだったよ」

「考えて通りって?」

「今起こっている矛盾を調べてもらったんだよ」

「矛盾?」

「どうして、城野莉さんが病院から連れ出されたのに騒動になっていないのか。僕はずっと気になっていたんだよ。警察沙汰になってもおかしくない。ニュースになっていなくとも風の噂で、世間が賑わっていてもいいはずなんだ。それなのに、一切の音沙汰がないのはどうしてだと思う?」

「何もしてない、とか?」

「その線も考えられる。学園はお金をばら撒いてるから、城野莉さんの件を公にしなければ、学園からの支援はいまだに続けられるわけだし……。だけど違うんだ。城野さんの親戚がどれだけ警察組織に訴えても、学園側、もとい学園を支援している組織、エリュシオンの運営がそう言った圧力をかけている可能性があるんだよ。そして、もう一つ調べてもらったけど、城野莉さんが余命宣告を受けた日からひと月なんて優に過ぎてる」


 さとるは、ずっと気になっていた。

 衛から告げられるのは、図書館に身を置いている莉は、一か月の余命宣告を受けている。だが、いつから始めての一か月なのか。

 接触する前に衛の件は調べている。莉をエリュシオンに連れてきたことも調査済み。

 莉に余命が宣告されていることも知っていた。だが、期限が分からなかった。

 そして、今やっと外部からの連絡で一か月以上が経過していることと城野莉の余命宣告を受けた日を知らされた。

 どれだけ病状が快復に進んでいると言っても、身体に異常が出ないのはおかしい。既に莉も何かしらの術にかかり、身体が麻痺している可能性があるとさとるは一人考えていた。


「その矛盾に気が付かないのはなんで?」

「天理学園だけじゃない。このエリュシオンって言う人工島が、世間から遮断してるからだと思う。この島でのみ使用できるデバイスがあれば、外部の情報を意図的に遮断する事が出来るからね。城野さんたちにとってそれほど経過してないって思っていたら、親戚の方が来ないことに違和感なんて抱かない」

「でも学園内では行事がある。一か月に一つ、何かしらの大小なりイベントがあるのに、気が付かないんだよ?」

「イベントなんて、誰もやらないからだよ」

「え……やらない?」


 聡は全くもって意味が分からないと頭の中がこんがらがってしまう。

 今回のような学科発表と言った行事をやらないとはいったいどう言うことなのか疑問が尽きなかった。


「改変能力を持っているのに、わざわざ目に見えた矛盾を作り出すとは思えない。当日になれば、みんな眠り続ける。そして、発表会をした記憶が刷り込まれる」

「うへぇ~なんか気持ち悪いな。それって俺たちにもある感じ?」

「学園の生徒に例外はないよ。本当に、気味が悪いね」


 暫く校舎を歩き回っていると『死期』が床から湧いて出て来る。


「やっぱり、この下であることは、間違いないんだけど」

「もうどうせなら爆破しちゃえば?」


 聡が警棒を握る。


「ダメだよ。人工島が沈没したら寮にいる生徒が巻き込まれるし、城野さんたちにも迷惑がかかる」

「なんで浮いてんだよ!!」


 ダンッと八つ当たりのように警棒で『死期』を殴り潰す。


「当面の目的は、城野さんたちには、卯月探し。僕たちは、大人を探そう」

「りょーかいっ!」


『死期』は二人の前に立ち塞がる。

 この先にはいかせまいとするかのように増え続ける。


「前は任せたよ。聡」

「後方しっかりしろよ? さとる」


 さとるの手には、普通に生きていたら決して持つことのない拳銃が握られていた。

 照準の向く先は、禍々しくも蠢く闇。



 彼らは、神を殺す為に潜入した。

 地下に巣食う神。見つけ出すのは至難の業。簡単に姿を見せてくれるとは考えていない。けれど、長丁場になれば、犠牲者が増える。罪のない学生たちが神の餌食になってしまう。

 時間がかかれば、かかるほど、学生たちは大人に近づき優秀な生徒は神の食事となる。


「おっと。こっちは憎悪かな?」

「なんか恨まれるようなことしたんじゃない? 女の子を粗末に扱ったとか」


 さとるは「まあいつもの事か」と『死期』を撃ち倒した。

『死期』に宿る感情。淳平と違い過激な行動は起こしてこない。

 どこにでもいる『死期』のタイプだ。

 どこに向けるわけでもない。ただ感情をぶつけて、ぶつかった相手の感情を吸い上げる。


「一旦引き上げよう。聡」

「あいよっ」


 二人は『死期』を退けながら地下探しを中断する。

 まるで地下を探させないとばかりに増え続ける『死期』は二人が退散すると徐々に減り、地面に溶けて行った。



 翌日、さとるの計画を破壊する出来事が起こった。

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