第21話 シキセマ
翌日、啓介は美夜を呼び。さとると聡の事を伝えた。
図書館に人が集まると改めて二人は自身の事を告げた。
さとると聡は、『死期』が見える為、天理学園に転入してきた。
所謂、潜入任務であり、任務をやる上での条件は『死期』が見えるか否か。
「じゃあ、お二人とも死を?」
二人が所属している組織は、なぜ『死期』が見えているのか、見える条件が理解出来ていなかったが衛、淳平は死を身近に感じたり、死を自覚したものが見えるようになっていることを既に解き明かしていた。
「死を自覚、認識か……うん、そう言う規則性で言うなら、僕たちは確かに死に触れているね」
「べたべたに触って引き離せないほどには!」
「それは、いやですね」
美夜は死からの脱却を願っている。不死になることが叶わないのなら、何のために『死期』に狙われ続けなければならないのか。意味もなく抗っていると目的を見失いそうになる。
「卯月と言う女子生徒が、いつどこに現れて、どう言う人なのか分からない以上、僕たちがこの人工島で信じられるのは、貴方たちだけなんです」
「この中に卯月がいるとは思わないんですか~」
「調査は終わってます」
「調査?」
「僕たちの事を勝手に調べてたんでしょー。……ほんと個人情報もクソもねえな」
「延永、やめとけって」
べーっと舌をだして心底嫌な顔をする啓介を宥める衛。
「それで? 昨日、五分前云々って言ってましたけど、それってなに?」
「五分前仮説。それは、人々が本来は五分前に生まれたのではと言う哲学の話です。今回の場合は、世界規模ではなくごく少数に及ぶ記憶改変のことを言います」
「僕たちの記憶が、五分前に書き換えられてるって言いたいの? それってなに? なにを変えたのさ」
「『死期』が見えるようになった原因。確かに死を自覚した日、死を身近に感じたものだと予想している。だけど、それが『死期』が見えるようになったとは考えづらいんだよ」
「別の要因がある?」
「死の云々は、きっかけでしかないんです。『死期』が見える人たちは、感染してるんだと僕は考えてる」
「感染?」
「私たち、病気なんですか?」
思い思いの事を口にするとさとるは慌てて「いやいや」と否定する。
「集団幻覚のようなものです。共通のきっかけにより『死期』と言う幻覚を見る。もちろん、『死期』に襲われたら心肺停止で死亡は確定します。貴方たちのしてることは間違いじゃないんです。僕は何も知らないながらによくここまで生き残れているなって感心しています。そして、『死期』は、人間の寿命を奪う怪物です」
「その怪物を倒す方法の一つが、ぶん殴る」
「だけど、それは一時しのぎにしかならない。僕たちは、根本を解決するために調査してます。そこで貴方たちが、偶然『死期』を見ることができて、対処法も知っている。協力してほしいんです。僕たちも貴方たちの要望を出来る限り叶えていきたいですしね」
「へえ、じゃあ。僕のクソ親父を殺してって願いも聞いてくれるわけ?」
「延永、いい加減にしろ」
「女の子じゃないとやる気でないんですよぉ~。仕方ないでしょう?」
欠伸をする啓介。昨日来たばかりでこちらの功績を掻っ攫うようなことをして気に入らない以外の感情は沸いてこない。
「これなら、まだ卯月ちゃんとか言う子を信じた方が僕としても良いけど」
「同意見だけどさ。少しは自分の足元をちゃんと見た方がいいよ?」
聡が言う。
「は? なに?」と啓介は不機嫌な表情をする。
「俺もさ、正直恋人と会えなくてうんざりしてんのよ。このまま任務放棄して帰りたいわけ? だけど、そうすると恋人が離れていく」
「僕には関係ない。お前が恋人と一緒にいられようといられまいとどうだっていいね。ねえ、先輩だってそう思うでしょう? なんかよくわかんないことをべらべら喋られて、はいそうですか。になると思う?」
「俺に同意を求めるなよ」
「まあ、早く死にたい奴はこのまま『死期』に食われちゃってよ」
「……喧嘩売ってんの?」
「どっちが先に喧嘩を売ってるんだか」
「延永、もうやめろ」
「……ちっ。あとは先輩方でどーぞ。後輩は後輩でしかないので、あなた方の決定が僕の決定ですよ」
だるそうに手を振って図書館を後にするために踵を返した。
「ちょっと、啓介君」
「悪い烏川、延永を頼む」
「わかりました」
出て行った啓介を追いかける美夜を一瞥してため息を吐く。
「すいません、聡は少し短気なところがあって……あとで謝らせますから」
「いや、こっちが悪いですから、寧ろ延永に謝らせます。それで結局俺たちは何をしたらいいんですか?」
「今まで通り……ではなく、アクションを起こしてほしいんです」
「アクション?」
「聡」
「任せなさぁい! 窓ガラスを十枚ほど割って」
「は? そんなことしたら、俺たちのポイントはく奪されて生活できなくなるじゃないですか! それに普通に退学レベルの悪行するわけないでしょう」
「夜にだよ夜」
「……本来誰もいない校舎の窓ガラスが割れている。非行行為をしている、谷嵜さんだって拳での喧嘩ばかりで校舎を荒らすようなことはしなかったのに、今になって登校するとガラスが割れている。担当するのは、アンドロイドだけ……風紀が乱れた校舎で、アンドロイドの説教なんて聞く耳を持つわけない。寮監督だって、未成年。成績が良いだけで大人ほどの権利は持ち合わせていない」
「……大人を引きずり出したいんですか」
「そう言うこと、子供の楽園エリュシオン。絶対に大人が手を引いてる。その大人がこそが『死期』を溢れさせている張本人であると僕たちの組織は読んでる」
窓ガラスを割っただけで大人が出て来るのだろうかと衛は怪訝な顔をする。
「『死期』はここで生まれて、街に広がってる。このまま放置したら『死期』に感染した人が増えて、大変なことになる」
「それは、昨日言っていた神ってやつですか?」
「え……あー、聡が言ったんですね。そうですよ。この人工島のどこかに、神様を作り出そうとしている人たちが必ずいます。その第一歩として、神様は不滅の存在。人間の寿命を『死期』によって吸収している」
「そんな事が出来るんですか? 科学的に可能なんですか?」
「科学で証明する事はできません。だけど、科学で生まれた者は確かにいる」
「? どう言うことですか」
「遺伝子操作で生み出された生物。それを使って、疑似的神を作り出そうとしている」
「どうしてそこまで分かる? お前たちが知り得た情報と俺たちが知る情報の中で、神を作り出すなんて発想には至らない。何を隠してる」
淳平がいつものカウンターで本を読みながらこちらの話を聞いてた。
気になる点がいくつかあったようで珍しく口を挟む。
「もう言っちゃっていいんじゃない? 言うことは自体は禁止されてないわけだし、もしダメなら処置がされるでしょ?」
聡がさとるに言うとさとるはため息を吐いて告げた。
「本物の神が、僕たちが所属する研究所にはいます。その人が言うには、この人工島の中には、不完全な神がいる。『死期』を使い人々を襲い。その人類の英知を集めようとしている。不老不死でありながら、すべての問いに解を見出す怪物。それが完成した。多分、戦争が起こる」
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