第19話 シキセマ
聡とさとるは、『死期』が見える双子。そして、『死期』を研究するとある機関に所属しているのだと言う。
どうして突然現れたのか、衛は疑問だった。けれど、『死期』の事をより知ることが出来るとわかれば、協力できると姿を見せた。
さとるは、衛の事を知っているようで「初めまして、城野衛さん」と名を言い当てた。
他にも、谷嵜淳平、延永啓介のことも言い当てる。自分たちの事を知っていて、尚且つ図書館をたまり場にしていることもお見通しだった。
「学園が閉鎖している間に侵入して、怪物を倒してる生徒がいるって言うのは報告にありました。だから僕たちも様子を見ていたんですが、皆さん隠しもせずよく堂々と学園に侵入できますね。罪悪感とかないんですか? もう見ていて卒倒しそうになりましたよ」
「……どう言うことだ?」
「いやいや、気にしないでいいよ。こいつ、良い子ちゃんだから、ルール厳守。学校の校則を破る事が嫌いなだけだから、本当なら今だって勉強したいだろうし」
聡が言えば「将来、お金に困っても貸さないからね」と悪態をついた。
「先輩たちはどうして『死期』のことを? それに機関って」
「詳しくは言えないんですが、僕たちは『死期』が発生した原因を突き止めているんです」
「発生した原因? 以前はなかったんですか?」
『死期』は三年前を境に現れたと言う。だが、それだと美夜や啓介の言い分が矛盾する。
「皆さんは五分前仮説と言うのをご存じですか?」
「世界が五分前に出来ていて、それ以前のは作られたもの、刷り込まれたものでしたか」
「そう。貴方たちが見ている『死期』は三年前に突如として現れた怪物。それ以前は、何者かが貴方たちの頭に植え付けた偽りの過去と言うことになります」
「……どうしてわかったんですか」
「そこは僕たちの研究機関が優秀だったからとしか言いようがないですね」
「そそっ。うちらは半端なことはしないからなぁ~。でも、安心してよ。もう『死期』とか言うのは俺たちがどうにかするからさ! 君たちはまあ長生きして?」
「どうにかするって……それは、『死期』が消えるって事ですか?」
「そう言うこと」
「なら、俺たちはもう死ぬことがない?」
二人に任せていたら、いつか『死期』が消滅して莉が死ぬような事態は起こらないと淡い期待を胸に尋ねると「それは違います」とあっさりと否定されてしまう。
「死そのものが無くなるわけじゃないですよ。人は死にます。寿命や事故、病気、様々な要因で死んでしまいますが、『死期』と呼ばれた怪物の脅威がなくなり、少しは平和に過ごせるようになると言うだけです」
「……死なないわけじゃない。なら永遠の命が手に入るって、『死期』を殺し続けることで願いが叶うって事は」
「? 僕たちの調査では、そんな事実はないですね」
「何でも願いが叶うなんて言葉を真に受けたの? それでも高校生?」
至極まっとうなことを言われてしまい衛は顔を伏せた。
「で? あんたらは、それを言う為に来たのか」
淳平が尋ねると「少しの間、協力してほしいと思ってきました」とさとるが言う。
「僕たちは『死期』の存在で世界の調和が乱されることを危惧してます。『死期』の発生原因を突き止める為に、この学園に転入。この学園にはなにかあると断言出来ます。その為には、一年と二年生に協力してほしいんです。僕たちじゃあ入れる教室にも限りがあって、転入したばかりでポイントも少ない」
熟考する中、衛は疑問を口にする。
「例えば『死期』が消えた後、『死期』を取り込みすぎた人は、どうなる?」
莉が取り込んだ『死期』が消えることがあるのか。
もし消えるのなら、莉が苦しみから解放される。
「僕たちでもそこまではわからないんです。大抵『死期』を四体以上取り込んでしまえば、死に至らしめてしまう」
「……四体、以上……」
莉は四体以上取り込んでいるはずだと衛は血の気が引いた。
足元が覚束なくなり淳平が「大丈夫か?」と尋ねて来る。
それに答える余裕が衛にはなかった。
過去が捏造されていたって構わない。莉が救われる未来があるのか分からなくなり、目の前が真っ暗になりそうだった。
五分前仮説、その五分間に莉が『死期』に取り込まされて苦しんでいるのかと悔しくなる。
「……お二人は、胡桃色の髪をした。夘月って女子生徒の事を知っていますか」
唯一の手掛かり、衛にとって希望の糸だった。
「勿論、夘月ちゃん。知ってるぜ。だけど、直接は会ったことはない。一般生徒は近づかない方が良いって話は聞く」
「どうしてですか」
「嘘を言うから……希望を食い物にするような悪女。危ない系の女子も悪くないけど、やっぱり清楚系もまたいいよね」
「兎も角、夘月と言う女子生徒を僕たちも探しています。彼女は『死期』についてよく知ってる。重要な情報源だと判断してます」
嘘を言っている。願いが叶う、永遠の命が手に入る。それらが全て嘘。
ならば、莉を救う手立ても失うことになる。
「皆さんは、『死期』についてどこまでの知識がありますか? 情報を交換しましょう」
にこにこと好意的な笑みを浮かべるさとる。
敵意がないと伝える為のものだと知っている。
「谷嵜、悪い。莉のことを教えてやってくれないか?」
「お前は?」
「……頭を整理してくる。俺がいたら余計なことまで言っちゃいそうだ」
そう言って淳平に後を任せて図書館を後にした。
「あ~、先輩。キちゃってるなぁ」
莉を救う為に今までやって来たと言うのに莉を救う手段がないとなれば、衛はまたかつてのように生きる意味を失ってしまうと淳平は心配になる。
「何をしようと勝手だが、俺がすることの邪魔だけはするな」
そう言って淳平は定位置であるカウンターへと踵を返した。
「さとる、報告してくる?」
「もう少し情報が欲しいから待って、聡はさっきの人に話を聞いて。くれぐれも僕たちは敵じゃないって伝えてよね」
「はいはいはい」
わかっているのかわかっていなのか聡は、衛を追いかけた。
追い打ちをかけないか心配だが、そう言う所は大丈夫だろうと双子の片割れを信じて淳平を追いかけた。
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