第15話 シキセマ

 啓介は、軽薄な男。女性と言うだけでナンパをするろくでなしであり、ヒモのような存在らしい。ナンパをする所為で日常態度が減点されてポイントが余り得られない。

 莉への好意も女の子と言う理由だけだろうと衛は結論づけた。


「先輩はどうして『死期』について知ろうとしているんですか? そりゃあ、命を狙われているから知りたくなる理由はわかりますが……」


『死期』は溢れて来る。何とかして消し去らなければ、明日は生きられない。

 自分の事で手いっぱいで相手の事を気にしているなんて余裕は本来ない。

 衛は、淳平のお陰でいまの立ち位置がしっかりしている。彼が居なければ莉を救う事も出来ずに死んでいただろう。


 衛は、美夜に自身の妹が『死期』を取り込んでしまい死にそうになっていることを告げる。助けたい一心で衛は行動している。

 他者の『死期』は手を下すことが出来ない以上、莉が何とか追い払わなければならない。だが、それにも限度がある。見えるようになっても莉が見えなければ的確に『死期』を退けることは出来ない。

 病院から連れ出して、『死期』から護っていることを告げれば美夜は表情を変えた。


「妹さんを助ける為に、先輩は頑張っているんですね」

「頑張っている……いや、自己満足に妹を巻き込んでいるだけだ。だけど、もしも妹の『死期』を追い払って願いが叶うなら……『死期』が原因で死んでほしくない。目に見えた死因で失いたくないんだ」


 莉の為ならなんだってする。莉を一か月以上、一年、二年、十年以上、この先も生きられるように、いつまでも笑顔を浮かべられるように衛は身勝手に救いたい。

 寿命で死ぬ事が第一で、その寿命までもが『死期』に寄るものならば、衛は莉から『死期』と言う概念を払うことで死ぬ事のない。健康な身体を与えることが出来る。


「……。ご協力させてください」

「えっ」

「微力ならも、先輩が妹さんを救いたいという気持ちは理解出来ました。少なくとも啓介君よりも純粋な気持ちです」

「ひどーい! 僕も純粋に莉ちゃんの事が好きなのになぁ~」


 美夜にも出来ることは限られているが、衛のサポートは出来るはずだと強く頷いた。

 莉から『死期』を遠ざける方法が見つかれば、おのずと自分の願いも叶うかもしれない。啓介に関しては明らかに不純な理由だが、協力してくれるのなら助かる気持ちで一杯だった。


「『死期』のこと突き止めましょう」


 きっと莉を救う手段があるはずだと衛も頷いた。



 改めて二人が協力してくれることが決まれば、淳平に伝えなければと図書館に三人は足を運んだ。

 保存容器を洗っている淳平を見つけて声をかけると「戻って来たか」と振り返る。


「……増えてる」


 淳平は来た時と人数が違うことに気が付いて呟いた。


「初めまして、淳平先輩。私は一年の烏川美夜と言います」

「そうか」

「谷嵜、烏川も手伝ってくれる」

「人が増えても手段が増えなきゃ意味がないだろ? どうするつもりだ?」


 この場にいる全員の共通点は『死期』が見えると言うこと。死を自覚、認識したものたちが集まってる。見えているだけ、自分の『死期』を殺すことしか出来ない。

 莉を救う方法なんてほぼない。


「『死期』はいつも何処から来るんだ?」

「そりゃあ地面からでしょう?」


 湧き水のように現れる『死期』の出現方法は地面、もしくは殺しきれていなければ何処からともなくといった感じだ。


「俺は、莉を病院から連れ出そうとした時、地面からは出て来てないと思った」

「どう言うことだ?」

「病院には既に無数の『死期』が蔓延っていた。どれも一様に入り口から入って来た。普通、床から湧いて出て来たりするんじゃないか?」


 病院では、地面から出て来るようなことはなかった。

 衛は一つの仮説が浮上する。


「『死期』が湧いて来る場所がある。そのポイントを潰せば、あるいは……」

「そんな非科学的なことある?」

「『死期』が科学的だったことなんて一度だってなかったよね?」

「科学的じゃない。何も証明できない。奇想天外な事だって起こり得るだろ? 普通は見えない『死期』に殺されることだって不思議じゃない」

「ネバーランドもいつまでも子供のままじゃいられない。現実的じゃない事をする先輩に倣って僕もちょっと現実的じゃない事してみたいですね~。じゃあじゃあ、僕、何処から湧いて来るのか調べてきますよ~」

「危険じゃないか?」

「大丈夫でーす!」


『死期』が何処から来て、何処に消えるのか。対象を殺した後、『死期』は一体どうなるのか。

 衛は知りたかった。知れば、莉を救えると思ったのだ。無知である以上、知り得る限りの事を知り、可能性を模索して、手繰り寄せる。


「はいはーい! じゃあ、僕から提案。折角こうやって秘密結社っぽいことをしているんだから、互いにどう言う経緯で死って奴を自覚したのか言い合ったりしよー」

「それは……」

「不謹慎と言うか、そう言うことは訊かないのが普通じゃないの?」

「普通? 『死期』が見えている連中が普通なわけないじゃない。美夜ちゃんったら可笑しい事を言うね~」


 誰にでも知られたくない事はある。別に隠していたって、告げなかったからと言って悪い事は何もない。


「僕は、目の前で母が交通事故で死んじゃいました~。血飛沫に汚れた僕の顔が正面に合ったショーウィンドウに映ってて、吃驚したのがきっかけですよー」

「ちょっと……」

「友だちだった猫が死んだ」

「淳平先輩も!?」


 図書館のカウンター。特等席とばかりに座って本を読んでいた淳平が突如として『死期』が見えるようになった原因を口にした。


「猫? 飼ってたの?」

「野良猫だ。……中学の頃、見つけて飼い始めた。小学生のガキどもにイジメを受けて……俺が見つけた時、すぐ病院に連れて行ったが、間に合わなかった」

「それで『死期』が見えるようになったと? 先輩って、結構繊細なんですね~! 意外だな~。喧嘩ばかりしてる谷嵜淳平が猫一匹に死を自覚するなんて、もっと喧嘩をして負けそうになった時かと思ったのに…………。詰まらないな」

「……」


 啓介は「じゃあ、次」と人差し指を衛の向けた。


「莉が余命宣告を受けたからだ」


 隠すことじゃないと衛は言う。

 莉を救う為にいるのは、この場にいる誰もが知っている事だった。


「まあ、想像通りだな。次、はい。美夜ちゃん」

「言うわけないでしょう。先輩たちも悪乗りしないでくださいよ」

「あ、すまない。無理に言わなくて良い。俺は告げて置かないといけないだろ? 事を起こしてるのは俺だからな」

「……別に言いたくない訳ではないですけど、啓介君にだけは知られたくないです」

「えっ! なんで?」

「言い触らしそう」

「わぉ! 信頼ないねえ」


 ケラケラと悪びれる様子もない。


「まあ信頼できない子が近くにいた方が、人って安心するって言うし!」

「少しは信頼さる努力をしたらどうだ?」

「お兄さん! 僕に妹さんをください」

「やらん」

「ほらー!」

「それとこれとじゃあ話が違う」


 隙あらば莉の事になる啓介に衛は腕を組んだ。

 そんな時、パタリと本を閉ざす淳平に三人は視線を向けた。


「やる事は決まったな。『死期』の出どころを調べる。それ以外は今まで通りだ」

「ああ、よろしく頼む」


 衛は、莉に会いに行こうと仮眠室に向かう。その後を啓介が追いかけて来ようとしたが淳平が邪魔をした。

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