第14話 シキセマ
延永啓介から告げられる。
父親と不仲で、泥酔した父親から伝えられた学園から親族への入金。
学園が生徒を『死期』に関わる実験の被験者にしている。
衛が『死期』が見えたのは本当に偶然で、『死期』が見えている人々はエリュシオンに限らず何処にでもいると言う。一様に『死』を自覚してしまった人にしか見ることが出来ない為、他人に言ってしまえば変人扱いを受ける。だから誰も口にしない。医者に言えば幻覚症状と診断されて違うと訴えている間に『死期』に殺される。
「谷嵜、信頼性は?」
「恋は時に人を狂わせる。よくある話だ。気になるなら、お前が知り合った女子生徒に聞いてみたら良い」
美夜も『死期』を知る一人であり、啓介と同じ高校一年だ。
もしかすると啓介にナンパされた一人に入る可能性がある。
淳平の提案を受けて美夜に会いに行く為に図書館を出て行く。勿論、淳平が莉を見てくれているとは言え図書館に啓介を残していくわけにもいかない為、一緒に学園に戻る。
モノレール内は人の姿はない。そこで気が付くべきだったのだ。天理学園の外に出たがる生徒などいない。そもそも学園で全て完結するのなら、周囲の施設など意味がない。それも民間人が侵入を許されていない人工島で図書館なんて意味がない。その上コンビニも用意されアンドロイドが作るにしても飲食店がある。食材を無駄にしているとは思わないが、客が来ない前提で店を開いている。
その違和感は学園によってカモフラージュされている。
「入学を断ることだって出来たのにどうしてそれをしなかったんだ?」
「受け入れたら寮生活、断れば強制労働。考えるまでもない事だと思いますけど~?」
父親と仲が悪いと言っても、大人だ。
子供の言い分など完全に無視して大人の言い分が優先される。
「にしても、これから美夜ちゃんに会いに行くんでしょう? 最高だ」
「女子生徒皆の事を知ってるのか?」
「勿論、新入生から転入生まで幅広く僕の心のノートには記されている。そのトップを飾るのが城野莉ちゃんってわけ」
「言っておくが莉に手を出してみろ。『死期』が近づくよりも先に殺してやるからな」
「わー、こわーい」
なんて笑いながら震える素振りをするのを相手にせず五分ほどして学園前でモノレールが停まる。
美夜を見つけて啓介について聞かなければ、知っているとは限らないが何かしら啓介を信頼する話が聞きたかった。余りにも不自然に現れて莉に一目惚れと言う異常性に疑いを抱かない訳もない。
「僕を信じてくれなくて良いけど、『死期』とか言うが見えるのは同じなんだから少しは受け入れてほしいです~」
「受け入れてほしそうに見えないから今動いているんだろ。死にたがりの癖に妹を寄越せなんて冗談じゃない」
「シスコンって奴? 高校生なんだから大人になったら?」
「お前に何が分かる」
「分からないなりに、莉ちゃんを幸せにしたいなぁーって」
わざとなのか本心なのか、啓介は衛の逆鱗に触れかねないようなことを言葉の端々に言う。
(俺はもう大人だ。年齢的にじゃない。伯父さんたちを裏切って莉をここに連れて来た時から、俺は……覚悟を決めていた)
莉を連れて来た。駅員に無理を言って病院からエリュシオンまで連れて来てもらった。その時から、伯父たちがエリュシオンに来るまでの間に莉の容体を安定させて、元気な姿を見せなければならない。
衛自身が間違いではないと証明しなければならない。
それは結局、偽善の何者でもない。衛の見る世界に『死期』が現れて力を手にしたと勘違いしている。それは重々承知している事でもあった。莉を巻き込んでまでする事ではない。だが巻き込まなければ莉をむざむざ死なせてしまう。
啓介の言葉を全て無視して一年が往来するフロアに来る。
二年の衛がそのフロアに来ると異質さをもかもしだしていた。
「啓介君、今日遊びに行かない?」
「ごめんねぇ~ちょっと用事があるんだ。また誘ってよ」
美夜を探しながら廊下を歩いている啓介に声をかける女子生徒が数人。
どうやら啓介がナンパし続けて気を向けた生徒たちのようだ。
衛は何も言わず立ち止まり啓介が女子生徒たちと話し終えるのを待ってた。
「あっ! そうだ、君たち美夜ちゃん知らない?」
「美夜?」
「あー、烏川って子じゃない?」
「あ、あの子」
「知ってる?」
「ううん、知らない。あんま話かけないし」
「暗いしね」
女子生徒たちは、本人がいないことを良いことに好き放題口にする。
彼女たちのゴシップに時間を使っている暇はないと口を閉ざしていた衛は啓介に近づき言う。
「それで、何処に居るのか知ってるのか?」
「えっ、誰?」
「二年の城野だ。烏川美夜を探してる」
「あっ! 彼氏? もしかして、烏川が啓介君に口説かれて嫉妬しちゃったとか?」
衛が口を出すと興味津々と新しいゴシップのネタとばかりに詮索してくる。
そして、美夜と衛が付き合っていて、ナンパしている光景を目撃して嫉妬心から啓介を連れて美夜を探しているのだと下種の勘繰りをする。
「啓介君はいつもナンパするし、本気じゃないから大丈夫だって!」
「そーそー。別に気にする事じゃない。それに烏川って地味だし」
「俺が彼女とどう言う関係であっても、知り合いでも友人でもない君たちに好き勝手言われる筋合いはないだろ。それに大人になれば、そう言った態度は慎むべきだ」
「はぁ? なに?」
衛が冷たく言い切ると彼女たちは明るい表情を消して不機嫌な顔を隠さない。
「ちょっと年が上だからって偉そうにさー」
「そりゃあ烏川だって、あんたみたいな堅物と相手したくないって」
「気分下がる。最悪なんだけど」
「ほらほら、外見美女たちは、散って散って」
猫を追い払うように手を振る啓介の言葉に「外見美女って」と不満な言葉が聞こえたのか訊き返した。
「だってそうだろ? 僕、外見だけが全てじゃない。内面も見てる。君たちは、んー。3点ってところかな。勿論100点満点中ね」
啓介が彼女らを評価すると「信じられない!」と糾弾する。
そんな人だとは思わなかったと平手打ちしようとするのを簡単に受け流して「またねっ」と悪びれもなく手を振った。
嵐が過ぎ去ったと衛は溜息を吐いて再び美夜を探す為に廊下を歩き始めると啓介は不思議そうな顔をする。
「僕がどれだけの女子生徒をナンパしたとか気にならないんだ」
「気になるわけないだろ。お前の女性関係を知って俺に何の得があるんだ」
「僕をより知ってもらえる」
「お前は女性には見境ないってことが分かった。莉は任せない」
「えーっ! そう言う事じゃないだろ」
違うと啓介は文句を言うが行いが行いだけに養護のしようがない。
「あ、衛先輩」
廊下を歩いていると美夜の声が聞こえて、衛は振り返る。
衛は、小走りで美夜に近づいて「探していたんだ」と見つかった事に安堵の表情を浮かべた。
衛は、啓介の言っていた事がどこまで真実なのかを美夜に尋ねる。
学園から親族に金銭が振り込まれているのは、知っていたらしい。
詳しい話をしたいと、場所を変える。
学外のカフェテラスで三人は話をする。
「招待を受けて、入学を決めた生徒には多額の金銭が親に振り込まれることになっています。先輩のところがないって事は、その金銭を独占したいからとか……そう言う感じかも」
伯父伯母の二人が、衛が学園にいる間に振り込まれる金を好き放題使っている。
「私は、学園を卒業したら貯金して将来の足しにしなさいって言われています」
それが言われないのは、良くて秘密にして未来の投資として子供に残している。
悪くて子供を置いて金銭を無駄使いをする。
(伯父さんたちは……どっちなんだろう)
今更訊けない。莉を連れ出した事で呑気に金に関しての連絡を入れることは出来ない。
(いや、今は金があっても意味はないか)
エリュシオンでは、通貨はデバイスのポイントだけだ。
目に見えた金銭の取り扱いはしていない。学力や日々の態度でポイントの数が決まる。
学園の在り方を改めて理解した、衛は横に座る啓介を一瞥する。
「烏川、こいつのことは知ってるか?」
「啓介君。二年じゃあ有名なチャラ男です」
「嫌だなぁ~チャラ男なんて僕は繊細ですよ~」
「ほらね? 彼の言葉は九割がた嘘である。って言うのが教訓です」
「延永は、俺の妹に恋をしたとかほざいてる。信頼性は?」
「ないです」
断言する美夜に啓介は「うっそーん!」と嘆いたふりをする。
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