5話。宣誓――僕達、私達は。己の性に従って殺しエンジョイします。

「どうして生きているのですか?」

「神様から直接慈悲を頂けたので」

「それは良かったです。これで私も一度なら神から慈悲を頂けるわけですね?」

「さぁ? どうでしょう? 化物と違って殺人鬼には慈悲を手向けないかも?」

「これはこれは。――悲しいです」

「おやおやまあまぁ。同じ穴の狢と言ってくれた貴女が随分と人らしい事を言うのですね?」

「こんなのでも教会から認められたシスターですから」


 当然の問い掛けに皮肉で返す。当然の解釈にも皮肉で返す。言葉だけの悲しみにも皮肉を送る。しかしシスターヘレナはその洗礼名の通りに曇らない。穢れない。濁りもしない。


 あの廊下で見せた恍惚とした笑みは何処へやら。シスターヘレナは清らかな笑みを浮かべていた。


「それで? 何故此処に来たのですか? 神にお礼を言いに来たという訳じゃないのでしょう?」

「はい。人を象っただけの石ころに興味はありません。興味があるのは何時だって――血が通う血液袋だけです」

「人でなし」

「貴女がそれを言いますか?」


 フフッ――と、また僕達は笑い合う。しかし廊下の時とは違い吸血鬼の前に聖職者が、聖職者の前に吸血鬼が立っている。


 そして何より、己の性に溺れた殺人鬼の前に同じ様に己の性に溺れた殺人鬼が立っているこの状況――最早語るに及ばず。ただただ僕達は己の性と娯楽の為に目の前の獲物を蹂躙するだけ。

 

 笑い合う笑みは次第に狂気に満ちてゆき――暴発する。


「もうこのトキメキが抑えられないんだから! シスターッ!!」

「あぁ!! 良い――素敵ですッ!! 私ももうこの胸の高鳴りが抑えられません! ――壱百夜君、貴方が死んでいく姿が見たい。死後の姿を拝みたい。貴方が成すかも知れない未来を想いながら無慈悲に、滑稽にっ、その目から光が失われていく姿が見たいッ!!」


 狂気と狂言に満ち溢れ、己の身体を抱き締めながら恍惚の表情を浮かべるシスターヘレナ。


「だからぁ……ですからァ! 今度こそ死に果てて下さいッ!!」


 と、”辛抱堪らない”を、全身で醸し出しながらシスターヘレナは右手で十字架を握り、指輪がはめられた左手を前に突き出して静かな叫び声を絞り出す。


「銀の泉よ――在れ」


 そう静かに震える声で叫んだ瞬間、彼女の足元から銀色の泉が湧き上がり、そこから冷気を纏った銀一色の獣が二体現れる。


 そしてシスターヘレナは足元の泉から獣と同じ条件銀一色と冷気の鉄鎚と釘を引き上げては、極上の獲物を前にした獣の様な眼光を僕に差し向けるだった――。

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