4話。おぉ! 吸血鬼達よ。死んでしまうとは情けない。

「おやおやまあまぁ――生きてる!」


 ヌルッと、目が覚める。僕を殺した筈のシスターヘレナの姿は何処にもなく、胸に刺さっていた杭は消えていてそれどころか露出した素肌に傷がない。


(夢?)


 と、ありきたりな疑問に行き着いたけど、露出した素肌に感じる肌寒さがこの疑問を否定する。そしてこの死屍累々な廊下を見て先ほどの続きなのだと嫌でも分からされた。


「――? あれ……」


 立ち上がった瞬間、意識が急にフワッ――となって全身の力が抜けて今度は顔面から倒れてしまう。


(なにこれ?)


 立っていられないほど意識がフワフワしてるのに、ハッキリと喉が渇いていると分かる。しかもこの渇きを癒すには血しかない事も分かる。


(仕方ない。鮮度は下がっていそうだけど此処には血が沢山ある)


 ただ残念ながら全ての死体はまるで獣に喰い荒らされた後のようで全然そそられない。――けど銭腹は代えられない。

 

 廊下を這い蹲って男か女か分からない死体に辿り着き、適当な場所に噛みついて血を啜る。


 すると――、


「!」


 予想を裏切られた味にびっくりした。


(え!? なにこれナニコレ! 鮮度が落ちてるせいで酸味が濁り、苦みや雑味も凄く目立つのにそれでも美味しい!!)


「――んっ?」


(あれ? 何か視える――?)


 血を啜っていると、ふと憶えのない記憶が脳内を駆け巡る。それは余りにも現実離れをした光景であり、思わず血を啜るのを止めてしまう程だった。


「これは……」


(この人の記憶? ――いや、人じゃない。僕と同じ吸血鬼だ)


 駆け巡る記憶は人のものでは無かった。時折ある会話に戦闘――そして僕なんかと比較にならないほど多い吸血の数々。


 これは凄い。映像作品にしか無い世界が今、僕の脳内を駆け巡っている。


「――あっ……へぇ……」


 駆け巡る記憶が次に見せたのは直近にして最期。シスターヘレナによって殺される場面であり、どうして僕やこの吸血鬼がこの学園に導かれたのかが分かった。


 あの唾液腺を刺激する香ばしい芳醇な香りは、シスターヘレナが着ている修道服から発せられた”人ではない化物を引き寄せる為の餌”の香り。


 そしてこの記憶の中で吸血鬼はシスターヘレナの事を”極東教会の異端狩り””水銀のヘレナ”と言い、彼女も自身を”火葬機関所属の執行者兼監視官”と名乗っていた。


 つまりはこの世界には吸血鬼や他の化物を殺す組織があって、シスターヘレナはその組織の構成員と言う事。この学園はいわば極東教会と呼ばれる組織がシスターヘレナに与えた狩場と言う事です。


「! おやおやまあまぁ」


 記憶が急に戦闘時になったかと思えば銀色のナニカに身体を喰い荒らされて終わる。再度血を啜ってみてもどうやらこの吸血鬼から得られる情報はこれで全てのようだった。


(なら次だ。この場にはまだまだ死体がある)

 

 既に喉の渇きは十分に癒え、シスターヘレナが戻ってくるかも知れないから早く逃げないといけないと分かっている。でもこの極限の吸血欲に勝るとも劣らない知識欲には抗えなくて、僕は湧き上がる知識欲に支配されてこの場全ての惨殺死体を貪るしか無かった――。



 数十分後。


「!! これはこれは。先ほどのお礼と慈悲を返還してくれますか?」


 と、学園の片隅にある小さな教会――その礼拝堂にて、今度は同じ穴の狢としてではなく吸血鬼としてシスターヘレナと相対した。

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