シスターなのに同じ穴の狢です。

1話。シスターヘレナは類友かもです。

「ふぁっ……んん」


 吸血鬼になって早一週間。数多の怪物狩りや神の使途から命を狙われ僕の世界は一変した――訳ではなく、こうして欠伸が出る程のいつも通りの日常が続いている。

 そのせいで吸血鬼としての能力が分かりません。一応、獲物を探しつつ夜の徘徊は毎日欠かさずにしてているけど、怪物やそれを狩る狩人――ましてや彼女と同じ吸血鬼にすら会えていなかった。


 この一週間で分かった事と言えば、髪、牙、翼と言った目に見えていた変化は僕の意思でなったり戻したり出来ると言う事。

 ※以後――髪、牙、翼が出た状態を吸血鬼モードと呼称する。


 そして次に日の光を浴びても死なないと言う事。ニンニクだって効きませんし、流水も効きません。十字架も別に怖くありません。あと何かありましたっけ? 弱点。


 最後に身体能力。これに関しては簡単な傷なら1日程度で完治に至れる回復力しか目に見える変化は見受けられず、目に見えない変化としては約8年もの間、僕の殺人吸血ライフを支えていた直感に磨きが掛かっているぐらい。

 

 ――あ、ちなみにあの羽は完全に見掛け倒しです。全くもって飛べません。


(飛べたら夜の移動が楽になるのになぁ)


「壱百夜君」

「! おやおやまあまぁ、シスターヘレナ様ではありませんか」


 一人、夕暮れが差し込む教室にて急に名前を呼ばれて少々ビックリする。名前を呼ばれた方を向くと、クラスメイトでありクラス委員長兼現役シスターのエレノアさんが近くで僕を見下ろしていた。


 ちなみにヘレナは洗礼名。【光、慈悲】の意味があるそうです。


「なんでしょうか?」


 と、向こうから話しかけられたとは言え、為りたてホヤホヤの化物が神様に仕えるシスターに自分からお伺いをかける。

 傍から見れば遠回しの自殺行為なんだけれど、シスターと僕は長年のクラスメイト。中等部一年の頃からの付き合い(同じクラスで、たまに会話をする仲)なので、向こうが『神の名の下に滅します』なんて言わない限り普通に接します。


「いえ用があったわけじゃありません。ただ補修が終わったのに最近帰るのが遅いな? と、思いまして。やはり家の事でお悩みを抱えているのかなと」

「あらお優しい。流石は我らのシスター委員長。クラスメイトの変化をよく見ていらっしゃる」

「迷える子羊の悩みを聞き、出来うる限りで乱れる心を清らかにするのも我らの務めですから。それが例え業深き者であっても」

「!」


 ドキッ。


「これはこれは。やはり家の事でお悩みが?」

「いえ。清らかで慈悲深いシスターヘレナ様にこの上ない贔屓を頂いてその……クラスにいるシスターの信者の方々にこのやり取りを知られたら磔にされた状態で石を投げられそうだなと」

「あらなんて怖いカルト現象なのでしょう。怖すぎてスーパーに立て籠もって聖書を音読したくなります」

「それだと最後に撃たれて死にますが? ――ちなみにその場合の僕の役は?」

「薬局に居た軍人」

「おやおやまあまぁ、祖父の保険金の一部をお布施として寄付しますので配役を信者Bに変えてくれます?」


 え? マジ無理ィ。劇中で一番惨い死に方をした人じゃん……。


 ――で、その後。日が暮れるまで他愛のない雑談をし、高等部の正門に辿り着くまで続ける。


「とりあえず思いつめる程の悩みは無いと分かりました。けどもしも新しい悩みや抱えていた悩みがどうしようもなくなったら気軽に相談を。楽しみに待っておりますので」

「いやそこは楽しみにしちゃ駄目でしょうよ」

「(ニッコリと笑う)。神に仕える身でありますが、所詮は17年しか生きていない小娘。神の怒りに触れない程度の娯楽は必要不可欠なのです。――壱百夜君と同じにね?」

「! おやおやまあまぁ」


 ドキドキッ――と、最期の言葉に本日二度目の心臓の高鳴りを感じてしまう。


「では夜道に気を付けて。夜は罪人と化物の時間なので、くれぐれも娯楽を求めて寄り道などしないように」

「肝に銘じて置きます。――では、シスターヘレナ。また明日」

「はい。また明日です」


 そう言って私達は別々の方向へ歩みを進める。私は私の娯楽の為に狩場の一つへ。そして彼女は学園の片隅にある小さな教会へ向かうのだった。

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