2話。血と臓物が彩る良い廊下です。
「ふぃ……今日は珍味を堪能できたわい」
終電が終わった駅のフォームで、長旅でカチコチになった身体をほぐしながら舌とお腹の満腹感に幸せを噛み締める。
(帰るのが終電になったけど、今日は遠出をして良かった)
舌に残る血の風味。若い……途方もなく若い血と、その血に年季が入った熟成の味が二種。鮮烈された血のフルコースに、感動の余り近くの自動販売機でペットボトルを確保して持ち帰ってしまう程です。
まぁ普通に電車の中で全て飲みきってしまったんですが……。
「――ん?」
微かに夜風に乗って唾液腺を刺激する香ばしい芳醇な香りが運ばれてくる。そんな夜風に導かれるまま歩くと学園の大正門前に辿り着いた。
(夜の学校か……)
狩場の一つにある廃校された小学校と比べて妙な重々しさと心地よい暗がりがある。しかも今は謎の香りの発生地。
(これは入るしかない! 血のソムリエとして、美食家として、この唾液腺を刺激する匂いの真相に辿り着かなければいけない。そしてあわよくば実食しなければいけない)
満たされていた本能はこの匂いのせいで渇きに渇いて渇望している。これを癒さなければ何が血のソムリエか! 美食家か!!
(大正門は警報が付いてるからよじ登れない。なら――)
と、学園の塀を見て回り、結構歩いた場所に塀を飛び越えられそうな木を見つける。心の中で(木登り……子供の頃にもっとやってくべきだった)と文句を垂れながら登って三段構えで塀を飛び越える。結構な高さから飛び降りたせいで下半身が痺れたけど、深刻な痛みはないので気にしない。
※木に登るのが一段。塀の上に着地するのが二段。最後に地面に着地で三段。
「さて――……こっちかな?」
鼻で匂いの発生地を探り、高等部校舎に当たりを付ける。
「上?」
高等部校舎に着き、中に入るなり匂いが上の階からしている事に気づく。
心臓と本能。心と性に激しい昂りを覚えながら階段を登り、匂いが一層強くなった二階で階段から廊下に出る。
「――おやおやまあまぁ」
星明りと紫色の炎に照らされた廊下は鮮血と臓物に彩られている。そんな冒涜的で魅惑的、背徳的で幻想的な廊下に見覚えしかない女子生徒が立っていた。
「ッ――え?」
声を掛けようとした瞬間、心臓に衝撃が走る。ゆっくりと視線を下ろすと野球のボールサイズの銀色の釘が僕の胸に刺さっており、僕は擦れた声で彼女の洗礼名を言いながら倒れた。
「その心には闇が巣食い、その存在は罪である。
主よ。その闇によって。その罪によって。その
――主は選定の鐘を鳴らされよ。
制服ではなく修道服を身に纏った彼女は一際綺麗な声で
「こんばんわ壱百夜君。遂に殺人鬼から神の裁きが下る化物に為り果ててしまったんですね? ――うれしいです」
と、シスターヘレナは僕を此処まで導いた香りに包まれながら哂う。聖職者にあるまじき恍惚とした笑みを浮かべて――。
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