殺人鬼から吸血鬼になってしまったらしい私はどうすりゃいいですか?
白黒猫
プロローグ。これが僕の初体験です。
殺人の初体験は9歳の頃だった。
相手は義理のお父さん。全裸で覆いかぶさってきたので果物ナイフを首に刺して殺した。
果物ナイフ。これは林檎と柘榴が好きだった亡き父の形見であり、曾祖父の代から受け継がれてきた銀製のナイフ。
これが押し倒された時に偶然手を伸ばした先にあって、お父さんが”穢される前に殺せ”と言っている様に思えた。
(温かい)
刺した首から血が滴る。
義理のお父さんは酷い悪臭に塗れた醜い容姿の人だったけれど、滴る血はルビーの様にキラキラと光っていてチョコレート以上に甘い良い匂いをさせていた。
「あ」
お義父さんが顔面から倒れ、倒れた拍子に果物ナイフが抜ける。そして血で濡れた果物ナイフから落ちた一滴の血の雫が口へ入り、人としての人生が終わった。
(美味しい)
脳と舌に電気でも流れたのか震えと唾液が止まらない。暖かな血の味は採れたてのザクロやトマトの様な澄んだ酸味をしていてこの醜い豚に似つかわしい上品な味だった。
刺した果物ナイフを抜いて代わりにステンレス製のストローを刺し、お腹が一杯になるまで血を啜る。
「プハァ――あっ」
息継ぎをしてふと少し離れた所で眠っているお母さんに視線を奪われた。
お母さんの血はどんな味? と、舌と唾液腺を刺激されたので同じようにお母さんも首を刺して殺し、お義父さんで使ったストローをそのまま刺し傷へと刺し直して血を啜る。
「プハァ――あぁ~……」
濃厚。そして濃密。母乳は血液で作られていると聞いた事があったけど納得のミルキーさ。そして邪魔しない程度の甘味の余韻に舌と脳、そして心が幸せに満ち満ちていく。
(あぁ……これは本当に堪らない!!)
歓喜に震える心と身体。痛い程に引き攣りあがる口角に薄っすらと快感を覚えながらお母さんの血を堪能し、えも知れない背徳感に溺れていく。
数十分後。
お腹一杯幸せ一杯になったので、お母さんに先ほどの果物ナイフを握らせる。ついでにお供え物として飲みかけだった日本酒の瓶を目の前に置いて就寝し、翌朝になってから警察に通報した。
警察の捜査の結果、今回の事件は夫婦仲の悪化と金銭トラブルが引き起こした悲しい事件として処理され、その後母方の祖父母に引き取られた。
引き取られた一か月後の元旦。トイレから戻ると祖父が餅を喉に詰まらせて死んでいた。で、好奇心と喉の渇きに負けて病院に連絡をせずに警察から返してもらった果物ナイフで祖父の指を少し切って血の匂いを嗅ぐ。
――うん! 加齢臭を超えた腐敗臭!! 道端に落ちて潰れた銀杏の様な匂いです。
この悪臭に好奇心と共に喉の渇きが消え去ったので自室に戻り、祖母が初詣から帰ってくるまで惰眠を貪った。
数時間後――祖母発狂。この日を境に祖母は認知症を患う事になりましたとさ。
それで8年後、17歳の現在。
祖父が自身に保険を掛けていたので生活には困らず、祖母も祖母で軽度の介護で済ませられる程度の軽い認知症に落ち着いてくれたので、自由気ままに己の欲求を毎夜毎夜で満たす生活をしています。
累計殺人数――沢山。本当に沢山です。へその緒が付いた赤子や付いていない赤子、母親に父親。幼い子供に同い年。そして年上。
沢山殺して沢山血を啜った。最初こそあった罪悪感は血の味を知れば知るほど薄れてゆき、今はもう”必要不可欠な栄養を摂取する為”と、生きる為には致し方ない事なんだと割り切っていた。
「! おやおやまあまぁ」
で、人としての人生が終わってから8回目となるクリスマス。様々な幸せに満ち満ちている聖なる夜に私も幸せを嚙み締めようと聖夜を徘徊し、獲物を見つけた。しかも歴代トップと言って差し支えないレベルの極上の獲物を。
「あぁ……」
日本人どころか人間離れした綺麗に整った顔立ちに、月光に照らされた髪がムーンストーンの様な煌めきを放つ幻想的な美女。もしこの場に妻子を持った誠実な夫様が居たとしてもあの魅了に抗えずに妻子を犠牲にしてでも手に入れようとしただろう。
それ程までにこの獲物は美しかった。
だから殺す。殺さなきゃいけない。多くの人達があの美女がもつ魅了に毒されないように。一つでも多くの家庭を守る為に。そして――あの美女の血を味わいたいと渇望する己の”
胸が張り裂けんとばかりに高鳴り、昂る気持ちを身体全身に浸透させながら美女に近づいてゆく。立ち止まった美女からが何かを呟いていたけどお構いなしに近づいて、縋りよって、這いよっていく――。
そして美女が振り返ったと同時に愛用の果物ナイフを喉に突き立てた。
「――」
美女は美女らしからぬ間抜けな表情となって街灯まで後ずさり「なん・ひ・こが?」と、よくわからない言葉を発して倒れる。
街灯に照らされながら殺した美女を抱きかかえ、刺さっている果物ナイフを抜いて何時もの様に傷口にストローを刺そうとした。
が、
「あむっ」
美女の首筋が、血が溢れる傷口が”直に啜れ”と、訴えかける。月光より煌めき、宝石よりも魅惑的。こんなのに抗える訳がない。
「! ん」
あぁ……! これを固めたものを賢者の石だと言われても信じてしまう。それ程までにこの美女の血は美しくて美味であった。
「プハァ――あんっ――」
と、啜っては息づきの為に口を離し、呼吸が整う前にまた齧り付いて血を啜る。酸欠気味になってもお構いなし。美女の血を啜る度に得体の知れない熱が心臓から生まれて、鼓動と共に全身に運ばれていく。
身体が焼ける様に熱い。――いや、蕩ける様に熱かった。
数時間後。
いつの間にか齧り付いたまま気を失ってたらしい。一呼吸入れてから美女の首筋から離れる。
「? ――え? 羽?」
身体に違和感を感じたので自身の身体を見てみたら、背中に羽が生えていた。しかも美女の髪と相違ない美しさを持った羽が。
しかも変化はそれだけじゃない。髪も美女と同じ髪色と煌めきを発している。
「あ」
背中の次に違和感があった口を開ける。そして真っ赤に染まった果物ナイフの刃に口内を映すと人間には不相応な牙が2本あり、此処でようやく自覚する。
僕――
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