第29話 誰と組むか⁈

   57.魔術大会


 ボクがダウ爺の教え子……と知れたことは、抑止力になってくれて、一先ずは小康を得た。ただ、エイリンが教えてくれたように、セイロン家の跡取りとしてのボクは除いておきたい対象であることに変わりない。

 何しろ、いつ亡くなるか分からないレイラなら、死んだ後に血脈を訴えて、セイロン家をのっとる戦略を立てることが主流だった。つまり血縁のある家だけが狙えばよかったのだ。

 しかしレイラが元気をとりもどせば、その婿になることでセイロン家に入りこむ、という戦略をとれる。すべての貴族が大きな自領をもつセイロン家に、アプローチできることになったのである。

 そこに、ボクがゴドフロア将軍派だという噂が拡がり、ボクを消そうとする者がいることも確かだ。今、軍内では保守派、改革派で争っていて、ゴドフロア将軍は保守派だ。過激な改革派にとって、目の上のたんこぶなのである。

 ただの恋愛シミュレーションゲームだと思っていたら、シドル目線では大変なことになってきた。

 今はレンの動きが大人しいので、そちらの方は安心しているけれど、愈々大切なイベントが迫ってきた。


 魔術大会――。

 これは魔術教練をうける生徒による、一年の成果を発表する場である。

 バトルでないのは、子供たちを戦わせたら、危険が伴うから当然だけれど、自分が覚えた魔法、できる魔法をどう見せるか? それを試され、評価されるのがこの魔術大会だ。

 主人公目線だと、ここで分岐の再配置がある。ここまでは比較的、全員と関係する感じで、ルートを決めずに遊ぶことになる。ただ、ここからは一人に絞ってシナリオがすすむようになる。つまり、ここで誰にするかを決めるのだ。

 それはゲームをリスタートし、攻略対象を変える場合も、ここにもどることができる。ターニングポイントとなるイベントで、本格的な恋愛シミュレーションゲームがはじまるのだ。

 でも、主人公と目すレンは、ここまで大切なイベントをこなしているようでいながら、時々はそのイベントに参加しなかった。

 正直、レンが誰を狙っているか? まだ不明だ。マイアには声をかけていない。さらにエマにも興味はないようだ。ミネルヴァ、アリシア、ウェイリングとはイベントを踏んでいるので、ここからそのルートで攻略をめざすことが可能。ここまでですでに失敗していると……例えば代表選挙でミネルヴァが負けていたりすると、ここからミネルヴァ・ルートで攻略をめざしても、恋愛が成就することはない。今は、その三人のルートがつながっていた。


 魔術大会はチームを組んで出場することがみとめられる。そう、誰と組むかがこの後のルートを別けるのだ。

 ボク……シドルは一人で出場することにしていた。それはゲームの中で、そういうシナリオだったからだ。

 ボクは一人でも魔法は優秀なので、それでもよいのだけれど、問題は攻略対象の五人がどういうチームを組むか? レンがどこに入るのか? だ。

 マイアもエマも、まだまだ魔法は未熟なので、一緒に組むことにしたようだ。拙い魔法でも、見せ方次第では評価されるので、演出をふくめて、多くの生徒がまとまって参加した方がいいい、との判断で、二人は庶民でチームを組んだ。

「アリシアはどうするの?」

「私は一人がいいわ。だって、アナタぐらいしか、組める人がいないでしょ? 逆にアナタと組んだら、何かバトルになりそう……」

 ボクも笑いながら「確かに、戦った方が魔法を見せられるけれど……。ボクは勘弁願いたいかな」

 魔術教練をうける生徒で、ウェイリング、アリシア、ミネルヴァ、そしてボクが傑出した成績をのこす四人だ。

 主人公目線だと、ウェイリングはノリがよく誘うと、同じチームになれた。アリシアは庶民でも魔法を頑張りたい、という熱意にほだされてチームを組んだ。ミネルヴァに至っては、正攻法でひたすらお願いする、という形だった。

 レンは一体誰と……と思っていたら、意外なことが起きた。

 ミネルヴァの呼び出しに出向くと、そこにアリシアと、ウェイリングもいた。彼女は全員がそろったことを確認すると、徐にこういった。

「この四人で組まない?」



   58.四人


「どういうこと?」

 アリシアも怪訝そうだ。

「この四人がいるこの世代って、最強だと思わない? 私はそれを教練所にアピールしたいのよ」

「面白そう~! やるぅ~ッ!」

 ウェイリングはノリがよく、そう応じたけれど、アリシアはまだ懐疑的だ。

「確かに、この世代って当たり年、とか言われているみたいだけれど、私は軍に入るつもりはない。だからアピールしたいわけじゃない」

「私だって、軍にアピールするつもりはない。こんな世代もいるんだぞって残したいのよ」

 ミネルヴァの熱い訴えに、アリシアも陥落した。

「分かったわよ。まさか、あなたからそんなことを言いだすなんて、思わなかったけれど……」

「ずっと考えていた……。この四人が集まったのって、何か意味があると思うの。私たちだけで……ううん。私たちしかできない、何かをできたらなって」

 ボクも驚いた。これでは、彼女たちが主人公と組むことはなく、ボクもバッドエンドにならずに済む。

 望むところではあるけれど、それを彼女たちから提案されるとは思わなかった。

 そして、これはゲームシナリオを外れるけれど、愈々ここからは未踏の分岐に入るのか? ボクにとっても分かりかねるイベントとなりそうだった。


 ミネルヴァの部屋をでて、アリシアと二人きりになったとき、ふとアリシアが教えてくれた。

「ミネルヴァはあなたを守りたいのよ」

「どういうこと?」

「今、セイロン家は微妙な立ち位置にあるでしょ。久しぶりに、貴族が家をかけて抗争する、その渦中、むしろ中心にいるのがセイロン家。それは否応なく、アナタにも影響する。私たちが結束して、アナタと連帯する、という態度を示せば、それもまた支援になる」

 確かに、ダウ爺の存在が抑止力になってくれているけれど、ボク自身が他の貴族や仲間との繋がりを示せば、それは力になるだろう。

「でも、そんなことをしたら、ミネルヴァの立場が……」

「それでもやりたいんでしょ。私は貴族の争いに巻き込まれるのはゴメンだけれど、アナタのため……だけなら、力になってもいい。だから受け入れた」

 どうやら、ボクのために予めミネルヴァは動いてくれていたようだ。それはそれで有難いけれど、愈々これはゲームシナリオとは外れる。ボクがこの世界にきて、これは大きなターニングポイントになりそうだと、改めて考えていた。












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