第2話 叔父の日記
館の周りに植えられていたと思われる花々はかなりしおれており、草も伸びてきていた。叔父が死んだのが半年前らしいので、それから人の手は入っていないのだろう。
外壁は本物の煉瓦で作ってあるようで、積み方もかなり本格的だ。こんな山奥にどうやってこんな館ができてしまったのだろうか。
おそるおそる役場からもらった鍵で玄関のドアを開ける。鍵はいたって普通の現代的な金属製のキーだ。ここはこだわってないんだな。
中はいかにも洋館という吹き抜けの階段ホールになっており、天井からはシャンデリアがかかっていた。床には毛の長い絨毯が敷き詰められている。もちろん階段の踊り場には、ピカピカに磨かれた西洋甲冑が飾ってある。すぐにでも車いすに乗ったミイラが出てきそうな雰囲気だ。
左右にドアが二つずつ、正面の階段を登った先にも部屋があるようだった。
とりあえず左の一番手前の部屋を覗いてみる。
部屋の中は、壁紙や照明に古めかしい意匠は凝らしてあるものの、誰かが暮らしていたような生活感が残っていた。木製のデスクにパソコンやペンなどの文具が置かれ、ベッドは掛け布団が少し乱れていた。ガラス戸のついた本棚には古典文学の全集や百科事典などが並んでいた。カーテンを開けると窓の外に山が見えた。
おそらくここで叔父が生活していたのだろう。
一度も会ったことがない叔父だが、一体どういう人物だったのだろう。
デスク前に座ってみる。座り心地の良い値段の高そうな椅子だった。お金持ちだったんだろうな。だけど、相続のとき資産のことは聞かなかったな。今度、聞いてみるか。
何気なくデスクの引き出しを開けると、だいぶ使い込まれたような分厚いノートがあった。
パラパラとめくると、どうやら日記のようだった。
一瞬、他人の日記を読むことに罪悪感を覚えたが、もう亡くなった人だし、興味もあったので好奇心に勝てず、少し読み進めた。
その日、起こったことや気づいたことをこまめに記してある。
几帳面な人物だったんだな。
サッと読んでいくが、特に変わったことはない普通の生活が綴ってあった。
ところが、日記の最後の方になると、文字が乱れてきた。
「……どうやら本物のようだ」
「このために館まで建てた」
「私の最後の悲願」
切羽詰まったような内容だが、読めない文字も多い。
何かが本物だった。そして館を建てた。それは悲願を叶えるため。
しかし、悲願とは一体何だろう。
「……すべての準備は整った。あとはやるだけだ。儀式は二階の書斎にて明日、夜十二時ちょうど」
儀式……?
なんだオカルトか。それに財産を注ぎ込んだのか。
日記の日付は、ちょうど半年前になっている。
叔父が死んだのも半年前じゃなかったか。
役場から送られてきた封筒を取り出し、叔父の死亡日時を確認する。
叔父が死ぬ前の日にその日記は書かれていた。
もしかして、「儀式」ってのが叔父の死に関係があるのか?
まさかね。
でも、そういえば死因は聞いていなかった。
なんか嫌な感じだ。
とりあえず、書斎を見るだけ見てみよう。何もなければそれでいいんだ。
俺は叔父の部屋を後にし、二階の書斎に足を向けた。
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