悪魔ジャックと白石誠

霧江空論

第1話 相続通知

 ポストを覗くと、たくさんの宅配ピザのチラシの間に見知らぬ黄色の封筒が挟まっていた。送り主は知らない村の役場だ。宛名は白石誠。間違いない。俺の名前になっている。

 役所から通知?

 なんとなく後ろめたい気分になる。あんまり気分がいいものじゃないな。

 封筒を開いてみると、中には折りたたまれたA4サイズの紙が一枚入っていた。



 白石誠 殿


 平素より本村事業にご理解とご協力をいただき誠にありがとうございます。今般あなたの叔父平野誠二郎氏の死去により本村に所在する不動産が相続されることになりました。つきましては相続手続のご案内をお送りさせていただきます。この書類の必要事項をご記入の上至急本村税務課までお越しください。なお、〇月〇日までにお越しいただけない場合は税務調査の対象となりますのでご了承ください。


 ■■村役場 税務課 担当 〇〇〇〇

 電話 〇〇〇〇―〇〇〇〇

 ファクス 〇〇〇〇―〇〇〇〇



 平野誠二郎? 聞いたこともない名前だ。

 そもそも俺に叔父がいたことすら知らなかった。本当に俺の叔父なんだろうか?

 放っておこうかと一瞬迷ったが、あとあと面倒なことになるのも嫌なので、役場に電話で問い合わせた。しかし、役場は「間違いない。急いで来い」の一点張りで話にならなかった。仕方がないので次の休みにその村に行ってみることにした。


 レンタカーを借りて山道を二時間走って、その村に着いた。

 周りは山ばかりのなんにもない田舎だった。田んぼと畑とたまに錆びついたジュースの自動販売機があるばかり。コンビニすら見つけられなかった。

 役場の手続きはすぐに終わった。職員は終始愛想が良かった。結局、役場は固定資産税を払う者が見つかればいいのだった。どんな不動産か見てもいないのに税金だけ払わせられるのか。まあ、いらなければ売ればいい。いや、こんな田舎の物件が売れるものだろうか。考えても仕方がないが、なんとなくどんよりとした気分になってしまった。

 とりあえず見てから考えよう。役場の職員に道を尋ねた。

「ええ、館まで一本道でっさね。まーっすぐ行ったらええで」

 館? なんかえらいものを相続してしまった気がする。


 言われた通り、一本道をずっとまっすぐ走っているが、もう一時間は過ぎてしまった。木々に囲まれて昼でも暗いようなガタガタ道を走っていると、だんだん不安になってきた。こんなに山奥に誰か住んでいるのだろうか。道を間違ったか。いや、一本道だ間違いない。いや、もしかしてどこかに分かれ道があったか。

 不安に胸がいっぱいになりかけたとき、突如木々の間から巨大な洋館が姿を現した。ヨーロッパの貴族が住むような煉瓦積みの赤い堅牢な建物。一階部分にはツタが這い、白い窓枠が煉瓦とコントラストを成している。夕陽が窓ガラスに橙色に反射して息をのむような美しさだった。

「すごい」

 白石誠が相続したのは、思わず感嘆を口に出してしまうほど威容の洋館だった。

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