不穏な動き

 イーグルは、両膝をつくエリスに憐みの視線を送っていた。

「おまえたちのやった事は許されない。だが、すぐにやめるなら俺は精一杯協力する」

「何を言っているのか分からないわ。私が悪いなんてありえないのに」

 エリスは不適な笑みを浮かべた。

「私を犯罪組織の幹部と罵っておいて、協力者を気取るのはやめてほしいわ」

「略奪や人身売買、そして虐殺は許される事じゃないぞ」

「あなたが許さなくたって関係ないわ。私は神に選ばれた特別な才能よ」

「そんな特別なんて、誰にも認められない」

 イーグルは溜め息を吐いた。

「エリスとはじっくり話をしたい。ブライト、すまないが魔力封じの手枷をエリスに」

「分かりました」

 ブライトは十文字槍を背中に戻し、冷徹な瞳で魔力封じの手枷を取り出して、しゃがんでエリスの手を取る。

「悪く思わないでほしい。できれば君たちがやった事を自覚してほしい」

「何度でも言うけど、私は何も悪くないわ」

 エリスはブライトの手を振りほどく。


「あなたたちに囚われるくらいなら、死んだ方がマシよ。ファントム・ジュエリー、エンジェル・ブラッド」


 エリスの頭上に赤く煌めく光の輪が生まれた。

 赤い輪は光の粒をまき散らす。光の粒は赤く輝くまま勢いよく辺りに飛び散る。赤い粒を浴びたブライトの頬や警部服は浅く切られていく。

 ブライトは冷徹な瞳を浮かべたままだった。


「その魔術は本格的に発動するまで少し時間が掛かる。すぐにケリをつけるよ。セイクレド・ライト……」


 ブライトはシャイニング・ゴッドを唱えて、エリスの魔術を無効化しようとしていた。しかし、その口元は震えて嗚咽をもらしている。魔力封じの手枷を床に放り、ガタガタと震える手で十文字槍を握る。

 不穏な動きだ。

 イーグルは首を傾げた。

「どうしたんだ?」

 ブライトは答えない。

 立ち上がり、何かに抗うように十文字槍から手を離しては掴むのを繰り返している。

 その様子を見ていたクロスは、苦々しく呟く。


「操り手が復活したのでしょう。エリクサーのおかげで辛うじてブライトさんの意識が繋がっているのだと思いますが、危険な状態です。早く止めないといけません。カオス・スペル、エンドレス・リターン」


 クロスの両手から黒い波動が生まれて、ブライトを包み込んでいく。

 クロスの魔術が、ブライトを操る魔術を呑み込めるのか未知数だが、何もやらないのは気持ちが収まらなかった。

 そんなクロスを嘲笑うように、エリスは魔術を重ねる。

「私が見過ごすはずがないでしょう。ファントム・ジュエリー、ダイヤモンド・ミスト」

 黒い波動はダイヤモンドに閉じ込められ、赤く輝く粒は長さと太さを増していく。

 このままではエリスの魔術が手を付けられなくなる。

 ローズは怒りを露わにした。

「早く捕まってくださらない!? フラワー・マジック、フォレスト・マーチ」

 ローズの両手から太い木の根が伸びる。

 ブライトとエリスを締め上げる寸前で、エリスが微笑む。

「無駄なあがきはやめなさい。ファントム・ジュエリー、ダイヤモンド・ミスト」

 太い木の根がダイヤモンドに包まれて固められていく。

 しかし、ローズは諦めない。


「こうなれば、根比べですわ。姓はクォーツ、名はローズ。地の超名門貴族のこの私が、あなたの魔力が尽きるまで、戦ってあげますわ!」


 ローズの向上を聞きながら、エリスはほくそ笑んだ。

「イクリプスが本格的に魔力を回復させたら、あなただって操られるわ。神はいつだって私に微笑んでいるのよ」

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