ローズの絶叫
クロスとローズは王城の奥へ走って行く。目的はフレアと合流する事だ。現在フレアは、隠し階段を降りているはずだ。
隠し階段の先には、ブライトたちを操っていたイクリプスがいる。今はどういうわけかイクリプスは魔力を振るえていないが、いつブライトたちをまた操りだすか分からない。ブライトとローズにはエリクサーを飲んでもらうという対策を取ったが、どこまで通用するか未知数だ。
「イクリプスを倒したと確信するまで油断しない方がいいな」
クロスは呟いて、走りながらローズに視線を移す。
「具合はどうだ?」
「この私が体調管理に失敗するはずがないでしょう。いたって健康ですわ!」
ローズは得意げに自らの金髪をかきあげた。
クロスは苦笑した。
「精神状態を守る事は失敗したくせに」
「あら!? 私に失敗なんてありえませんわ!」
「記憶がないのかもしれないが、おまえは操られていた」
「どなたに?」
「イクリプス。ブレス王家の闇の血筋のようだ。シェイドの父親でもある」
クロスが淡々と告げると、ローズが両目を見開いた。しばらく経った後で、ローズの絶叫がこだまする。
「シェイドは王子様でしたのぉぉおお!?」
「声が大きい、うるさい」
「これでも随分と押さえましたわ! よりにもよって、あの男が乙女の憧れになるなんて、神が許しても私が許しませんわ!」
「今さらだな。シェイドの父親がブレス王家に連なる血筋なのは、世界警察ワールド・ガードの本拠地から帰る途中で説明したはずだ」
クロスは耳を押さえてうめく。
「急に大声を出されたから耳鳴りがする」
「耳鳴りなんて放っておきなさい! ブレス王家に連なる血筋と聞いて、現国王だったなんて誰が考えますの!?」
「国王なのか?」
「ブレス王家の生き残りはごくわずかですわ。前国王が崩御された今、イクリプスは年齢的にフレアよりも王位継承の順位は高いはずですわ。もっと言えば、イクリプスを倒したらシェイドに王位継承が行く可能性だってありますのよ!」
ローズは顔面を蒼白させた。
「悪夢の魔術師がブレス王国を掌握したら、戦争だって起こし放題ですわ。なんとしてでもフレアを女王にしませんと!」
「フレアに王座は早すぎるだろうが、シェイドには身分がない。母親が奴隷で、本人もブレス王家とは認められていない。安心しろ」
「安心できませんわ! あの男は欲しいものはどんなものでも奪い取るでしょう。絶対に倒しますわ!」
ローズは右手で握りこぶしを作って、天井に向けて勢いよく突き出した。
「姓はクォーツ、名はローズ。この超天才美少女魔術師が、悪夢の魔術師から世界を救って差し上げますわ!」
「気持ちが昂るのはいいが、今はフレアを助けよう」
クロスの提案を聞いているのかいないのか、ローズは高笑いをあげたままだった。
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