仲間、復活?

 クロスは王城の入り口付近を走っていた。操られたブライトの十文字槍に突かれて、左肩と左腕を負傷しているままだ。

 徐々に血がにじむ。体力も削られていた。

 額に汗を流しながら、クロスは呟く。


「……フレアの悲鳴がきこえたな」


 フレアは、隠し階段に突き落としてしまった。咄嗟にブライトの十文字槍を避けさせようとしたが、裏目に出たかもしれない。今ごろブライトたちを操るイクリプスと対峙してるだろう。

 イクリプスは複数人を操っている。クロスの仲間のうち、ブライト、ローズ、イーグルが虚ろな目でクロスに害を加えようとしている。

 クロスは焦っていた。体力は削られているが、フレアを助けにいきたい。

 走りながら、祈るような気持ちで辺りを見渡し、ブライトの十文字槍やローズの魔術を避けてフレアの元に行く通路がないか探した。

 そんなクロスの祈りは通じたのかもしれない。


「クロス、早く怪我の手当をしよう!」


 ブライトが声を掛けてきた。虚ろな目ではない。いつもの穏やかな眼差しが戻っている。

 ローズとイーグルは突然に足を止めて、周囲を見渡す。

「あら!? いつの間に王城に!?」

「うう……なんで俺はこんなに疲れがたまっているんだ。年か?」

 明らかに操られていない。

 クロスは笑いがこみ上げた。足を止めて振り返る。

「フレアがやったのか……!?」

 フレアが一時的に、イクリプスが魔力を振るえない状態にしたのは間違いない。

 しかし、操られていた三人の首筋に黒いシミがあるままだ。また操られるかもしれない。

 ブライトが駆け寄ってくる。

「酷い怪我だ。いったい誰が……」

「言いづらいのですが……」


 クロスは、ブライトの十文字槍を指さした。


 ブライトは両目を見開いた。


「これはクロスの血なのか!?」

 ブライトは血の付いた切っ先を凝視したが、やがて首を横に振った。

「……どんな理由があっても、魔術学園グローイングの学生を傷つけた事に変わりはない。責任は取るよ」

「俺の怪我はかすり傷です。それよりも、急いでエリクサーを飲んでください。あなたがまた操られたら厄介です」

 エリクサーは魔力と体力を回復する特効薬だ。イクリプスの魔力を跳ねのける事ができると、クロスは考えていた。

 クロスはブライトの手に、エリクサーを湛える円錐状の花を押し付ける。

 ブライトは十文字槍を背中に戻して、溜め息を吐いた。

「君のものなのに……」

「気にしないでください」

「本当にすまない。いつか償うよ」

 ブライトは円錐状の花をそっと受け取って、大事そうにエリクサーを飲みほした。透明な容器に入ったポーションをクロスに渡し、包帯を取り出してクロスの左腕と左肩にまいていく。鮮やかな手際だった。

 クロスはポーションを素早く飲んで、安堵の溜め息を吐いた。


「ブライトさんが元に戻って良かったです」


「ちょっと!? 私は!?」


 ローズがわめきだす。

「この私を差し置いてコソコソと何を話していましたの!?」

「コソコソしていたつもりはない。気にするな」

「気にするから聞いていますのよ!?」

「……いつものうるさいのが戻ったか」

 クロスは舌打ちをした。

 ローズは自らの金髪をかきあげた。

「うるさいなんて心外ですわ。元気と愛嬌は乙女のたしなみですのよ!」

「さて、フレアを助けにいかないと。ローズはエリクサーを飲んでおいてくれ」

「簡単に流さないでくださる!? あと、無傷の私がエリクサーを飲むのはどうしてですの!?」

 クロスが王城の奥へ走る。ローズも走り出す。

 ブライトとイーグルは微笑んで、そのあとをついていった。

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