クロスの覚悟
シェイドがセレネに向けて魔術を放つ頃に。
フレアとクロスは、黒い球体を追いかけていた。黒い球体は透明な羽でブビビビと耳障りな音を立てながら飛んでいる。
フレアは息を弾ませながら、両目を輝かせていた。
「あの球体が行く先にイクリプスがいるのね! イクリプスを倒せば、みんなが元に戻るのね!」
フレアたちの後を、ブライト、ローズ、イーグルが追う。みんなイクリプスに操られている。
フレアの手を引っ張りながら、クロスは呟く。
「フレア……本当にすまない。俺にもっと力があれば、フレアがシェイドに力を貸す約束なんてしなくてすんだのに」
「気にしないで! 私にできる事に限定したし、きっと大丈夫よ!」
「おまえのできる事は、おまえが思っているより多い。たぶん大陸中に影響がある」
クロスは淡々と告げる。
「シェイドが無難な命令ばかりするとは考えづらい」
「そうね……私が危なくなるかもしれないわ。でも、みんなには迷惑を掛けないようにするつもりよ!」
フレアは微笑む。
「今はみんなを助ける事に集中しましょう!」
「そうだな……だが、これだけは言わせてくれ。シェイドから命令を受けたら、俺にやらせてほしい。フレアがやるよりよほどいい」
「そうなの?」
フレアが首を傾げると、クロスは溜め息を吐いた。
「俺の気持ちの問題だ。とりあえず、ローズの魔術が届きそうだから消しておく。カオス・スペル、リターン」
クロスの言う通り、ローズの放った木の根がフレアたちを絡めとろうとしていた。
間一髪のところで木の根が黒く染まり、枯れて、床へと溶けていった。
クロスは前を向く。
「ブライトさんに追いつかれなければ、なんとかなる。あとはイクリプスの居場所を突き止めるだけだ」
視界が開ける。両側にのぼり階段の裏側が見える。もう少し走って振り返ると、左右に弧を描くように階段が配置されているのが分かる。
階段を昇った先には、エリスの肖像画が飾られている。
そんな空間の真ん中付近で、黒い球体が降りた。
黒い球体が床を突っつくと、異変が起きる。
床が円状に開き、下り階段が姿を現した。
クロスは口の端を上げる。
「あの階段を降りればいいのか」
「きっとそうよ! 行きましょう……!?」
二人で勢いよく階段を降りようとした。
しかし、ただ走り抜けただけだった。床がすぐに元に戻ってしまったのだ。
フレアとクロスは互いに顔を見合わせる。
「どうして!?」
「たぶん、イクリプスの魔術ですぐに閉じるように仕掛けられている。だが、もう一度魔術的な刺激を与えれば、床は開くはずだ」
黒い球体が再び床をつつく。
再び円状に床が開いた。
フレアは、クロスと二人で降りるつもりだった。
しかし、クロスはフレアを下り階段へ突き飛ばした。
「なんで……!?」
フレアの疑問は悲鳴に変わった。
クロスの左肩が、ブライトの十文字槍に刺されていた。
クロスは急いで後ろに跳んで、槍の先を抜ける。
そのタイミングで、床は閉じてしまった。
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