ブレス王国跡地

集合

 夕暮れが暗闇と混ざる頃に。

 フレアはローズに腕を掴まれながら、校門前まで走り抜いた。ローズは足が早くて、フレアはヘトヘトになっていた。

「疲れちゃった……」

「何をおっしゃるの! 本番はこれからですわ!」

 背中まで汗がべっとりしているフレアに対して、ローズは意気揚々と高笑いをあげていた。

 クロスは呆れ顔で溜め息を吐いた。

「ローズ、これからが大変だという時にフレアを無理させない方がいいだろう」

「ご安心を! 本当に疲れたのなら、私がポーションを作ってさしあげますわ」

 ローズは胸を張る。その胸に、自らを主張するように片手を置く。


「姓はクォーツ、名はローズ。この私にぬかりなどありえませんわ」


「そうか、食べ物や飲み物も持ってきたのか?」


 クロスが問いかけると、ローズの表情が固まった。

「ポ、ポーションなら作れますわ」

「ポーションで腹は膨れないだろう」

 沈黙がよぎる。

 冷たい風が吹く。フレアの目に砂埃が入った。

「イタタタ」

「フ、フレアは私の分の飲食物を持ってきてますわよね?」

「無いよ、イタタ」

 すがるようなローズの視線に気づかないまま、フレアは両目をこすった。

「本当は水で洗いたいけど、無いから仕方ないよね」

「水なら持ってきてやったぞ。おまえたちは絶対に忘れてくると思った」

 唐突に、野太い声が聞こえた。

 振り向けば、イーグルが魔術学園グローイングの校舎の方向から歩いてきていた。背中にリュックを背負い、腰の辺りにいくつものきんちゃく袋を付けている。


「水や食料は余分に持ってきた。おまえたちが作ったエリクサーもだ。これで本当に安心できるな」


「こ、これくらいの事は予測済みでしたわ! イーグル先生かブライト様がきっとお持ちになると、ほ、本気で考えておりましたわ!」


 ローズが明後日の方向を見ているのを、イーグルは生暖かい目で見ていた。

「クォーツ家は虚勢を張るのが好きなんだな」

「虚勢ではなく、ほ、本当に考えたのですわ。この私に不可能などありませんのよ!」

「分かった分かった、そういう事にしてやる。ブライトもそろそろか」

 イーグルが、慌ただしい足音のする方を向く。

 西側からブライトが大急ぎで走ってきた。荒い呼吸のまま頭を下げる。

「やれやれ、僕がラストだったか」

「遅いですわ! この私を待たせるなんていい度胸をしておりますわね」

 ローズは無駄に勢いよくブライトを指さす。

 クロスは溜め息を吐いた。

「……食べ物も飲み物も持って来なかったら、早いに決まっている」

「僕が遅かったのは事実だからね。反論をするつもりはないよ」

 ブライトは苦笑していた。

「フレアも早く来たのがびっくりだ。疲れているみたいだけど」

「うう……もっと体力を付けたいわ」

「無理をしなくていいよ。お互いにできる範囲で頑張ろう」

 ブライトが呼吸を整えて微笑むと、フレアの笑顔が輝いた。

「ありがとう、お兄ちゃん」

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