悩んでも仕方ない
魔術学園グローイングが攻め込まれる恐れがある。
この言葉を聞いた時に、フレアの頭は真っ白になった。
「……本当なの?」
呆然としたまま、言葉がこぼれた。
「本当に、ドミネーションが魔術学園グローイングを攻め込むの?」
「何とも言えないと思う。犯罪組織ドミネーションの目的は、自分たちに都合よく世界を支配する事だ。彼らを育てた魔術学園グローイングは攻撃の対象から外されていたけど、彼らが恩義を忘れたら分からないと思うよ」
ブライトは真剣な表情のまま、言葉を続ける。
「イーグル先生は、彼らが恩義を忘れるはずがないと言っていたけどね。僕らは、いつどんな行動をするのか分からないのが犯罪組織ドミネーションの恐ろしさだと思っている」
「……セレネとも戦う事になるのかな」
フレアが尋ねると、ブライトは両腕を組んだ。
「魔術学園グローイングに攻め込むなら、僕はどんな人間でも倒さなければならない。できればフレアを巻き込みたくないけど、うまくいくか分からない」
フレアは両手を口元にあてて、両目を潤ませた。吐き気をこらえるのに必死だった。
セレネには世話になった。友達になりたいと思った。
しかし、殺し合うかもしれない。
「フレア……残酷な事を言ってごめんね」
ブライトは心配そうに声を掛けた。
「犯罪組織ドミネーションの動向を探るために、調査は必要だと考えている。準備ができ次第、すぐにブレス王国へ向かうつもりだ。そこで、図々しいのは分かっているけど、クロスにお願いがあるんだ」
「一緒にブレス王国に向かい、調査に協力する事でしょうか?」
クロスは淡々と問いかけた。
ブライトは頷いた。
「とても危険な任務になるだろう。可能な限り安全に配慮するけど、怖かったり嫌だったら遠慮なく断ってくれ」
「犯罪組織ドミネーションを探るのなら任せてください。たいがいの事なら自力で乗り越えます」
クロスは口の端を上げた。
ブライトは安堵の溜め息を吐いた。
「心強いな。無理にならない範囲でお願いするよ」
「あら? 真っ先に声を掛けるべき相手をお間違えでなくて?」
ローズが胸を張り、自らの金髪をかきあげる。
「姓はクォーツ、名はローズ。世界一の天才美少女魔術師に真っ先に同行を求めないなんて、世界警察ワールド・ガードのエースの名が廃りますわ」
一方的な言い様に、ブライトは苦笑いした。
「気分を悪くしたら申し訳ないけど、今回の目的は偵察なんだ。できれば戦闘を避けたい」
「犯罪組織ドミネーションがとうの昔に準備を終えていて、早急に攻めこんできたらどうしますの? のんびりと偵察なんかしている場合じゃありませんわ。相手の不意をつきませんと」
「気持ちはすごくありがたいけど、シェイドとセレネの実力を侮らない方がいいよ。エリスだっている。簡単に不意をつける相手じゃないんだ」
「それなら、正々堂々と戦えばよいのですわ!」
ローズは自らの右腕で、フレアの左腕と組んだ。
「こっちには最強の聖女がいますのよ!」
「フレアを巻き込むのは避けたいんだけど……」
ブライトは視線をそらした。
ローズの言い分は理解できるが、現段階の世界警察ワールド・ガードの目的と反する。
しかし、フレアたちがいると心強いのも事実だ。
悩んでいると、クロスが口を開く。
「ローズの説得に時間を割くより、早く出発した方がいいと思います。彼女には陽動や囮をやってもらいましょう」
「あら!? ひどい言い様ですわね!」
ローズが騒ぐが、ブライトは笑っていた。
「そうだね。悩んだって仕方ないね。ブレス王国に行く準備が整ったら、魔術学園グローイングの校門前に来てくれ。イーグル先生が協力してくれるから山は簡単に超えられる。登山の準備や大荷物を持つ必要はないよ。じゃあ、待っているね」
ブライトは一礼して、護符に吸い込まれるようにして消えていった。
クロスは護符をポケットにしまい、マークとベルに交互に視線を送る。
「また出かけるけど、心配しないでほしい」
「分かっている! 男はやると決めた事はやりきれ!」
「気を付けてね。いつでも待っているからね」
マークとベルに言葉を掛けられて、クロスは深々とお辞儀をした。
「行ってくる」
「さぁ、出発ですわ!」
ローズがフレアと腕を組んだまま、家を出ようとする。
クロスはローズの両肩を掴む。
「フレアを危険に巻き込むな」
「危険なのは承知ですわ。でも、フレアは待っているだけなんて耐えられますの?」
ローズに問いかけられて、フレアは首を横に振った。
「私だってドミネーションの動向を知りたいわ。できればセレネを説得したいし」
「もしかしたら命がけになるかもしれない。いいのか?」
クロスが確認すると、フレアは微笑んだ。
「私はやりたいようにするわ。できるだけみんなの迷惑にならないようにするから、頑張らせて」
「そこまで言うのなら、俺からは何も言わない。お互いに頑張ろう」
クロスは、ローズの肩から手を離す。
ローズは高笑いをあげて走り出した。
「行きますわよ、私たちの明日を勝ち取ってみせますわ!」
「ごめん、もう少しゆっくり走って。疲れちゃう」
「何をおっしゃいますの、これでもゆっくりしておりますわ!」
ローズとフレアを追いかけながら、クロスは苦笑した。
「ローズもフレアも頼もしいな。油断は禁物だが、どうにかなる気がする」
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