対抗策
三方向から放たれた魔術をどうすればいいのか思いついた。
そう告げた時に、フレアはその場にいる全員の視線を集めた。
ブライトと共に三方向の魔術を抑えようとして失敗した世界警察ワールド・ガードの面々も、シェイドの結界の中で身を寄せ合うドミネーションの一団も、期待と心配の眼差しを向けている。
本当に大丈夫なのか?
誰もがそう思っているのだろう。
フレア自身も不安を隠せないでいた。確実に成功するとは言えない対抗策である。
フレアの肩が小刻みに震える。周囲が雷と小爆発を伴う吹雪に包まれたせいだけではない。
そんなフレアの両肩に、温かな手が置かれる。
振り向けば、クロスの微笑みがあった。
「せっかく思いついたんだ。言ってみよう。どんな作戦でもいいから聞きたい」
フレアは力強く頷いた。何を言ってもいいというクロスの言葉に勇気づけられた。
彼ならきっと受け止めてくれる。そんな安心感があった。
フレアは深呼吸をして、できるだけ大きな声を出す。
「三方向の魔術が強力なのは、見事に連携しているからだと思うの。止めるには、私たちも力を合わせるべきだと思う」
根拠が薄いし、具体性にも欠けている。首を傾げる人間もいた。多くの人間が理解に苦しんでいる。
そんな状況を察して、クロスが引き継ぐ。
「三方向の魔術は、俺も世界警察ワールド・ガードの方々も止められませんでした。かなり強力な魔術が使われています。おそらく一人の魔術師だけで放てるものではありません」
「特性の違う魔術が使われているしな」
シェイドが頷きながら聞いていた。
「一種類の魔術で対抗しても、すぐに呑まれちまう。全部の魔術を一気に消し去るしか無いぜ」
「具体的に誰の魔術を合わせるかだね」
ブライトが口を開いた。
「世界警察ワールド・ガードの本拠地に応援を頼んでも、誰も返事をしない。たぶん、みんなやられている」
「……セレネたちもやられたか」
シェイドが沈んだ声で呟いた。
「あいつらもツイてねぇな」
「諦めるのは早いと思うよ。死んでいるとは限らない。急いで助けに行けば間に合うかもしれない」
ブライトがウィンクをした。
「三方向の魔術を消し去るなら、もともと魔術を消したり奪ったりするものがいいだろうね。シャイニング・ゴッドとロバリィをうまく合わせればいけるかもしれない」
「まさかあんたと俺でやるのか? 互いの魔力特性が反発し合って大爆発を起こしたじゃねぇか。学生時代を思い出せよ」
「う……たしかに」
ブライトは視線をそらしてうめいた。
そんな時に、ローズが高笑いをあげた。
「中継ぎがほしいという事かしら?」
ブライトは曖昧に頷いた。
「たしかに間に入る魔術師がほしい。でも、ローズの魔術は地の魔術だ。たぶん僕の光とシェイドの闇の間に入れない。僕とシェイドの魔術が暴発するだけだ」
「あら!? そんな制約がありますの!?」
「特性の違う魔術を混ぜ合わせるのは危険なんだ。伝説とうたわれる混沌の魔術なら、様々な魔術と合わせられるらしいけど……」
そこまで言って、ブライトはクロスに視線を送る。
「頼んでいいか?」
「シェイドと組むのは死ぬほど嫌なのですが、ブライトさんの頼みなら引き受けます」
クロスは溜め息を吐いた。
シェイドは口元を引くつかせる。
「相変わらず俺だけに厳しいな」
「シェイド、ここは大人の貫禄を見せるところだ。三方向の魔術を止めよう」
そう言って、ブライトは微笑む。闇色の結界に触れて、金髪と警備服が少し溶けてもシェイドに歩み寄り、手を出す。
シェイドはブライトを睨むが、手を握り返した。
「勘違いするなよ。あんたに気を許したわけじゃねぇ」
「分かっているよ。クロスも間に来てくれ」
クロスは素直に頷いて歩み寄り、ブライトとシェイドの手を握った。
「この三人で魔術を放つのは、これが最初で最後だな」
「いいからとっとと始めようぜ」
シェイドに促されて、ブライトとクロスは深呼吸をした。
「それじゃあ行くよ」
三人は声をそろえる。
「セイクレド・ライト、カオス・スペル、イービル・ナイト、トライアングル」
三人の頭上に、銀色に光る三角形が浮かび上がる。強く、優しい光を放っていた。
銀色の三角形は、ゆっくりと上昇し、闇色の結界を抜けていく。
次の瞬間に三角形は急激に広がる。銀色の光が粉雪のように降り注ぐ。凍てついた周囲に、温もりと光を与えていく。雷や小爆発を包み込み、和らげていく。
フレアは見惚れていた。
「綺麗……」
やがて銀色の光は、役目を終えて空気に溶けるように消えていく。
辺りはいつの間にか、もとの温かな地上に戻っていた。
シェイドは、二人から手を離し、結界を消して溜め息を吐く。
「……まずはグレイスたちの様子を見に行くか」
限界を超えた魔術を放ち続けたグレイスたちの容態は絶望的だろう。
「骨くらい拾ってやるか」
「待って、持って行ってほしいものがあるの」
フレアが呼び止めると、シェイドは両目を白黒させた。
フレアはローズに向き直る。
「ねぇ、ローズ。器にするのにちょうどいい花を出せる?」
「構いませんけど、何にお使いになりますの?」
「エリクサーの入れ物がほしいの」
エリクサー。
この言葉を聞いた時に、どよめきが起こった。
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