三つの魔力
地上にも異変が生じていた。
辺りの気温が急速に下がり、大気中に氷の粒々が生じる。凍てつく空気が徐々に地面を凍らせる。下手に呼吸をすれば肺が凍るだろう。
それだけではない。風が光り、バチバチと小刻みに嫌な音を立てる。雷を帯びながら、無数の小さな爆発をしている。各自がしっかりと自分の身を守らないと感電や爆発に呑まれて意識を奪われるだろう。
氷と雷と小さな爆発が周囲に渦巻き、視界を暗くする。
クロスは両手で口元を覆いながら呟く。
「三方向から強力な魔力を感じる。襲撃に加わった魔術師はグレイスだけではなかったのか。カオス・スペル、エンドレス・リターン」
クロスの両手から黒い波動が一気に広がる。地面と風を黒く染め上げて、勢いをそぐ。
しかし、ほんの一瞬だけ氷と雷と小爆発が和らいだだけで、黒い波動はかき消されていった。
クロスはうめいた。
「どの魔術も強力すぎる……!」
「安心してよ。僕も呪文を唱えているから」
ブライトはウィンクをして、十文字槍を凍てつく地面に突き立てた。
「セイクレド・ライト、シャイニング・ゴッド」
天空から注ぐ温かな光が辺りを包み込む。氷を溶かし、雷や小爆発を吸い込み、視界は徐々に明るくなっていく。
世界警察ワールド・ガードの面々はブライトの魔力を高めるために呪文を唱えている。彼らの連携が、ブライトの魔力をより一層強くする。
フレアはローズから貰った花束を抱えながら歓声をあげて、ローズは胸を張った。二人とも両目を輝かせていた。
「お兄ちゃんすごい!」
「私が見込んだだけの事はありますわ」
辺りは神の光に満たされる。地面も風も光り輝き、荘厳な景色となっていた。
もう少しで地上は元通りになる。
そう思われた矢先に、思わぬ事態に見舞われる。
神の光に抗うように、エネルギー波が生じたのだ。エネルギー波は白、青、赤と強烈に明滅し、地面を砕いていく。
「エネルギー波が膨れ上がっている。このまま魔術を放ち続ける方が危険か……」
ブライトは苦々しい表情で自分の魔術を消した。
クロスがすかさず魔術を使う。
「カオス・スペル、エンドレス・リターン」
エネルギー波は黒い波動と溶け合うように消えた。
しかし、もともと発動していた三つの魔術が止まるはずはない。氷と雷と小爆発がどんどん広がっていく。
ブライトは溜め息を吐いた。
「このままではここら一帯が消滅するかもしれない。犯罪組織ドミネーションのエージェントたちの仕業だよね。シェイド、幹部として責任を取ってくれないかな?」
「お断りだ。ここら一帯はあんたらが守護するべき地域だぜ」
シェイドは両手を広げて、鼻で笑った。シェイド自身は、ドミネーションの一団を囲う闇色の結界の中にいる。結界はシェイドが張ったもので、揺らめく闇がドーム状に広がっていた。
「魔術学園グローイングは教員たちが守るだろうし、俺がここら一帯を守る理由はほとんど無いんだ。グレイスたちの魔力が尽きるまで粘って、ここら一帯が消滅した後で帰るだけだぜ」
「君らしくない判断だ。そんな事をしたらグレイスたちが昏倒して、命を落とすかもしれない。魔力が尽きるのを狙うのは危険だ」
ブライトが食い下がると、シェイドは殺意に満ちた眼差しを浮かべた。
「もう遅いぜ。あいつらの限界をとっくに超えている。もう昏倒しているだろ。俺が死んだなんてデマをエリスにつかまされた結果だ。あの女ただじゃおかねぇ」
「簡単に諦めるなんて君らしくないのに……」
ブライトはうつむいた。
おそらくシェイドは、グレイスたちの命を諦めたくなかったはずだ。しかし、今この場にいるドミネーションの一団を守る事を考えて、苦渋の決断をしたのだろう。
何か手立てがないか考えたいが、何も浮かばない。
世界警察ワールド・ガードの面々に絶望が浮かんでいた。
そんな中で、ローズは無駄に高笑いを浮かべる。
「皆様、なんて表情をなさるの? 起死回生の方法なら残されていますのに」
「本当か!?」
ブライトが顔を上げる。
世界警察ワールド・ガードの面々も、ローズに期待の眼差しを向ける。
ローズはかじかむ手で自らの金髪をかきあげた。
「当然ですわ。相手は氷と雷と小爆発。これら全てを消し去れば良いのですわ!」
「なるほど、たしかにそうだ」
ブライトは頷いた。
「問題はどうやって実行するかだね」
「そ、それは……えーっと……」
ローズの表情が固まった。文字通り凍り付くのも時間の問題だろう。
世界警察ワールド・ガードの面々の表情が沈む。
そんな時に、フレアが恐る恐る口を開く。
「どうすればいいのか思いついたかも」
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