襲撃に対して

 耳をすませば大量の奇声や慌しい足音が聞こえる。襲撃者たちが急速に近づいているのだろう。

 世界警察ワールド・ガードの面々に緊張が走る。

 ブライトも真剣な表情で指示を出す。

「第一班は襲撃に備えて陣形を組み、第二班はフレアたちを避難させてくれ」

 世界警察の面々は指示通りに陣形を組んだり、フレアたちの周囲の守りを固めたりする。

 迅速かつ的確な行動だ。

「すごい……」

「おそらく魔法陣を組んでいるのだろうが、かなり速い。さすが世界に誇る警察組織だな」

 フレアとクロスは感心した。

 しかし、不満げな表情を浮かべる人間もいた。

 ローズだった。

「私は逃げも隠れもしませんわ」

 ローズが一歩進み出た。

「姓はクォーツ、名はローズ。地の魔術を極めた超名門貴族の私が、襲撃者に後れを取るなんてありえませんわ」

「気持ちはありがたいけど、相手は得体が知れない。武器を持っているが服装はバラバラだという情報がある。正式な軍じゃないのだろう。何をするのか分からない」

 ブライトが真剣な眼差しでローズを見据える。

「襲撃者は僕たちに任せて、君はフレアを守るために全力を尽くしてくれないか?」

「そう言われたら悪い気はしませんわね」

 ローズは自らの金髪をかきあげた。

「お任せなさい。フレアには指一本触れさせませんわ」

「ありがとう。いつも世話になるね」

 ブライトはウィンクして親指を立てた。

 ローズは高笑いをあげた。

「私のような天才美少女には、簡単な事ですわ!」

「得意げになるのは結構だが、時々は現実を見た方がいいだろう」

 クロスが口を挟む。

「おそらく既に囲まれている。フレアを逃がすのは簡単ではないだろう」

「囲っているだなんて、この私の魔術の露になるおつもりですのね!」

「そんなつもりで襲撃する人間はいないだろう」

 クロスは苦笑した。

「差し出がましいのを承知で、ブライトさんに提案があります。この近くに世界警察ワールド・ガードの本拠地があります。そんな場所に襲撃を掛ける組織は限られているでしょう」

「犯罪組織ドミネーションだと言いたいんだね」

 ブライトが確認すると、クロスは頷いた。

「そこに幹部がいるので、説得させるのはどうでしょうか?」

「……俺が協力すると本気で思っているのか?」

 シェイドは両目を白黒させるが、クロスは冷静な表情のままだ。

「緊急事態だ。やるしかないだろう」

「俺が止められるとは限らねぇぜ」

「おまえは幹部だ。やればできる」

「俺が捕まっている間に神の啓示を受けた連中なら、俺だって何も言えねぇよ」

 シェイドの言葉に、クロスは腕を組んで考え込んだ。


「神の啓示はそんなに強かったのか……」


「ドミネーションのトップから授かる特別な任務だからな。その任務を邪魔したら神の怒りを買う。下手したら消されるぜ」


 シェイドが溜め息を吐き、クロスがうなる。

 ブライトは首を傾げた。

「幹部なのにか?」

「幹部だって危ないぜ。神の自己中を舐めんなよ」

「心の狭い神様に従う君は大変だね」

 ブライトの労いに、シェイドは苦笑した。

「大変だが面白いぜ。あの野郎の性格はあんたも知っているだろ?」

「そうだね、悪い人じゃなかったと思うよ」

 ブライトは懐かしむように言っていた。

 シェイドは含み笑いを始めた。

「よく言うぜ。神がトップを務めるドミネーションを犯罪組織と呼ぶくせに」

「組織的に犯罪をしているのは事実だからね」

 ブライトが微笑む。十文字槍を構えながら無邪気な眼差しを浮かべている。

 ブライトとシェイドは、声を出して笑いだしたが、心の奥底で何を考えているのか分からない。

 フレアは恐る恐る口を開く。

「えっと……とりあえず今は襲撃者をどうにかすればいいのね」

「そうだね。シェイドが説得に失敗したら、僕たちで倒すしかないね」

 ブライトがシェイドに視線を移す。

 シェイドは舌打ちをした。


「説得するつもりなんて無いぜ」


「じゃあ、私がやってみるわ」


 フレアの提案に、その場にいる全員が唖然とした。

 フレアは頬を赤らめてうつむく。

 しかし、伝えるべき事は伝えようと思った。

「シェイドが頼りになるのは分かるけど、やる気がないのに無理にやらせるのは違うと思うの。私にできるのか分からないけど、やってみるわ」

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