意外な協力者

 授業前に、上級科の教室は賑わっていた。

 昨日の課題は、各々の魔力特性に関する知識を深める事であったが、遊びに行った生徒もいた。

 一方で、集中して勉強をしたために貴重な知識を得た生徒も多かった。

 フレアも貴重な知識を得た。

 ブレス王家は光と闇の血筋に分かれていた。ほんの少しであるが、自分の出自が分かった事は大きな収穫に思えた。

 授業開始のチャイムが鳴ると共に担任のイーグルが教壇に立ち、生徒たちが着席する。

 チャイムが鳴り終わる頃に、イーグルは咳払いをした。

「昨日は多くの生徒が頑張って勉強していたな。明日には学習した成果をレポートにまとめてもらう」

 一部の生徒が文句を言いたげだったが、イーグルは構わず続ける。

「レポートのまとめ方が分からないなら指導する。それと、学習した成果は正直に書くように。背伸びをする必要は無い。三日で魔術をマスターできる人間はいないからな。実験や調べものが行き詰った時も相談するようにしろ」

 イーグルは教室中の生徒をひととおり見渡すと、パンッと手を叩いた。

「今日も、自らの魔力特性に関する知識を深めろ。昨日よりも充実した日になるように努力しろ」

 多くの生徒たちが、互いに顔を見合わせたり首を傾げたりした。

 実験や調べものをやり尽くしたと自信を持つ生徒も、昨日は遊びに行った生徒も、今日は何をやるべきか困惑していた。

 教室を出る生徒は、わずかであった。

 フレアも教室を出ていく。

「私はまだまだ勉強しないと」

「俺もだ。もっと勉強をして魔力を高めたいところだ」

 クロスが隣を歩く。

 二人の前に、急にローズが躍り出て天に向けて拳を突き上げた。

「今日こそフレアが魔術を制御する方法を突き止めますわ!」

「ローズ、ありがとう!」

 フレアが両目を輝かせると、ローズは胸を張った。

「大船に乗ったつもりでいなさい」

「うん! 私も頑張るよ」

 フレアはコクコクと頷いて、ローズに尊敬の眼差しを向けていた。ローズはまんざらでもない表情であった。

 クロスは二人を見守りながら苦笑していた。


「やる気があるのはいいが、周りの迷惑にならないようにした方がいい」


「クロスの言うとおりだ。フレアの魔術制御は魔術学園グローイングの威信をかけるべきだという意見がある。教員として様々な手段を講じるつもりだ」


 三人の後ろから、いかつい声が聞こえた。

 振り向けば、イーグルがいた。両手で握りこぶしを作り、瞳に闘志を燃やしている。


「教員の干渉は望ましくないが、フレアの魔術制御は学生に課すレベルじゃないからな。俺も手伝える事は手伝うつもりだ」


「あ、ありがとうございます」


 イーグルに気おされつつ、フレアはお礼の言葉を述べた。

 思い返せば、フレアは魔術学園グローイングを強制退学になってもおかしくない失敗をしている。

 何百年と魔力のデータをためてきたクリスタルを壊し、教室の天井を破壊し、実験室の壁や天井を砕いたりした。以前、生徒に弁償を求める事はないと言われたが罪悪感が消えるわけではない。

「壊してしまった物の弁償代は、魔術学園グローイングの卒業後に少しずつ返します」

 フレアが頭を下げると、イーグルは乾いた笑いを浮かべる。

「安心しろ、すぐに弁償できる物ばかりではないと分かっていれば充分だ」

「安心できないのですが……」

「今は自分の魔術を制御する事を考えろ。それがお互いにとって最善だ」

 乾いた笑いを浮かべたままのイーグルに対して、クロスとローズは何も言えなかった。

 フレアも曖昧に頷くしかなかった。

「が、頑張ります」

「そうしてくれ。幸いおまえの魔術制御を手伝える魔術師がいた。おまえが良ければ昼休み後に協力してくれるらしい」

「そんな人がいるのですか!?」

 フレアは両目を見開いた。

 イーグルは力強く頷く。

「俺は頼りになる人間だと思っている」

「どんな人ですか?」

「真面目で勤勉な男だ。おまえの良き相談相手にもなるだろう。犯罪組織ドミネーションの幹部をしていたのが勿体ないくらいだ」

「え……?」

 フレアは、クロスとローズと顔を見合わせた。

 フレアは恐る恐る尋ねる。

「もしかしてシェイドですか?」

「おお、よく分かったな。かなり気合いを入れてくれるらしい。世界警察ワールド・ガードとも話はついている。頑張れよ!」

 イーグルの笑顔が輝く。

「どんな気合いを入れてくれるんでしょうか……?」

 フレアは口元を引きつかせていた。

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