フレアの魔力特性

 グリームは穏やかに微笑んだ。

「急に呼び出してすまなかったのぅ。少々急ぎの用事があったのじゃよ」

「急ぎでしたか……どんな用事ですか?」

 クロスが恐る恐る尋ねると、グリームは咳払いをした。


「世界警察ワールド・ガードから頼まれてのぅ。フレアの魔力制御を手伝って欲しいそうじゃ」


「私のためだったのですか!?」


 フレアの声は裏返った。

 グリームはゆったりと笑う。

「そんな畏まらなくてよい。フレアは自然体でいればいいじゃろう」

「……自然体ですか」

 フレアは両目をパチクリさせた。

 自然体を意識した事がなく、どんなものか掴めない。

 クロスがフレアの肩をポンっと軽く叩く。

「変に意識をしなくていいという事だ。魔術を抑える時のように、深呼吸をすればいいと思う」

「う、うん」

 フレアは言われたとおりに深呼吸をした。

 しかし、もともと落ち着いている胸の内に変化はない。

「……何も感じないわ」

「魔術を放ってないなら、その状態が当たり前じゃ。くれぐれも忘れないように」

 グリームに言われて、フレアは背筋をピンと伸ばした。

「わ、分かりました」

「自然体をもう忘れておるが、許容範囲かのぅ」

 グリームは白い髭をいじりながら首を傾げる。

「感情が乱れると魔力が暴走するようじゃから、心の平穏を保つ練習をさせるべきかもしれぬ」

「は、はい。気をつけます」

「あとは己の魔力特性をよく理解する事かのぅ。膨大な魔力があっても、それだけでは魔術を制御できぬ。お主の魔力特性のデータを引き出すから、理解しようと努めるがよい」

 グリームは厳かな口調で呪文を唱えた。

 明滅していた光の粒たちが輝きを増す。

 やがてグリームは両目を見開いた。

「マテリアライズ、キャラクタリスティック・ヒストリー」

 無数の光の粒のうち、空間中を縦横無尽に駆け巡っていた一粒が、赤い燐光を帯びる。

 やがてフレアの前で激しく上下する。

 文字が書かれているようだ。

 フレアは唾を飲み込んで、ゆっくりと読み上げる。


「爆発する何度でも蘇る炎の鳥」


 フレアの身体が赤い燐光を帯びる。

 次の瞬間に、フレアの身体から赤い光の柱が立ち昇る。

 触れた物を全て焼き尽くす柱だ。

 飛び交う光の粒たちが、柱から逃げるように離れていく。

 フレアは慌ててしまい、頭の中が真っ白になった。

「ど、どうして!?」

「今の読み上げは、バースト・フェニックスの言い換えじゃ。同じ効果があるのぅ」

 グリームがゆったりとした口調で告げる。

「安心せい、この空間から元の世界を傷つける事はない。しかし、おっかないから光の柱を消してくれぬか?」

「や、やってみます」

 フレアは深呼吸をして、柱を抑えるイメージをした。

 柱は広がない。

 しかし、消える事もない。

 フレアは涙目でクロスを見る。

「どうすればいいの……?」

「光の柱は消せると、強くイメージすればいいだろう。いつものように、深呼吸をしよう」

 フレアはクロスに言われるがままに、深呼吸をした。


 柱の勢いは弱まっている。


 しかし、完全に消えるには何日も掛かるだろう。フレアの身体が消耗するだろう。


 最悪の場合、フレアは昏倒して、命を落とすかもしれない。


 クロスはグリームに伺いを立てる。

「俺が止めてもいいですか?」

「それしか無いようじゃのぅ、頼んだ」

 クロスは頷いて呪文を唱える。

「カオス・スペル、リターン」

 クロスの右手から黒い波動が生まれて、光の柱と混ざっていく。

 やがて光の柱は、黒い波動と溶け合い、空間に馴染むように消えていった。

 フレアは安堵の溜め息を吐いた。

「クロス君、ありがとう」

「いつもの事だ」

 クロスは微笑んだ。

「問題は、フレアの魔術を制御する道筋が立たない事だな」

「うむ……儂もお手上げだと、世界警察ワールド・ガードに言わなければならぬ」

 グリームは白い髭をいじって、唸っていた。

「犯罪組織ドミネーションの幹部シェイドなら、やれる事があるようじゃが……」

 クロスは何度も頷きながら聞いていた。

「世界警察ワールド・ガードは、あの男の力をできれば解放したくないでしょう。しかし、俺は最悪の手段にかけるしかないと思います」

「クロスがそう思うのなら、おそらくそれしかないのじゃろう。儂も考えがまとまった。ご苦労であった。元の世界に戻ってよい」

 グリームが指差す方向に、光を放つ穴がある。人ひとりが通れるくらいの穴だ。

 クロスは一礼して、穴を通る。

 フレアは深々とお辞儀をした。

「ご迷惑をお掛けしてすみません」

「迷惑など掛かっておらぬ。気にせず学門に励むがよい」

「はい!」

 フレアは顔を上げて元気に返事をした。

 クロスが行った穴を通る。

 後に残ったグリームは、薄暗い空間を見渡すと、静かに口ずさむ。

「魔術学園グローイングの生徒たちが未来に向かって励むように、儂らもより一層励む必要があるのぅ」

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