秘密の場所
イーグルは下り階段へ続く方向を指さして、歩き出す。
「ついて来い。学園長の元へ行くぞ」
「あら? 学園長室はそちらではありませんわ」
ローズが指摘すると、イーグルは首を横に振った。
「学園長は違う場所で待っている。本を片付けたら、すぐに行くぞ」
「どこですか? 場所が分かれば、自力で行きますよ」
クロスが提案すると、イーグルは振り向いて自分の口元に人差し指を置いた。
「秘密の場所だ。これ以上は余計な事をしゃべらないようにしろ」
「はい、分かりました」
クロスは頷いた。両目を白黒させていたが、イーグルの言葉に素直に従った。
フレアは両手で口元を押さえて、しゃべらないように意識した。
ローズはいぶかし気に首を傾げたが、イーグルの言う通りにした。
四人は、階段を降りていると時折他の生徒とすれ違うが、一礼して口を開かないようにした。
一階に降りるが、本棚がびっしりと並んでいる。しかし、ろくに本はなく、人もいなかった。窓から差す光も、他の階に比べて弱々しい。
イーグルは他の生徒がいないのを慎重に確認して、部屋の奥まで歩いて、壁に両手を付ける。
「今から見るものは、他の人間にバレるわけにはいかない。魔術学園グローイングの最高機密だ。絶対に話さないようにしろ」
フレアとクロスは、固唾を呑んで頷いた。ローズは片手を上げた。
「お聞きしたいのですけど、他の人間にバレるとどうなりますの?」
「悪用する人間に狙われれば、魔術学園グローイングが滅びる恐れがある。秘密を守るのが苦手なら、すぐにこの場を去ってほしい」
「クォーツ家に話すのもダメですの?」
「ダメだ」
イーグルがピシャリと言うと、ローズは頬を膨らませた。
クロスが口を開く。
「秘密を持たないという信条があるのは悪い事ではないと思う。だが、魔術学園グローイングにも都合があるのだろう」
「分かりましたわ、ここまで来たのですもの。秘密はしっかり守りますわ」
ローズが渋々頷いた。
イーグルは人語を解さない言葉を紡ぐ。
すると、異変が起きた。
壁が円形にグニャリと歪む。歪みはどんどん増していき、やがて円の中心付近に空洞ができる。
空洞は人ひとりが通れるくらいの大きさになる。
「この空洞を一人ずつ通れ。俺は外で待っている」
イーグルが空洞を指さすと、クロスが頷いた。
「俺から行きます。大丈夫だと思いますが、危険を感じたら戻ってきます」
「俺に信用がないのは悲しいが、気をつけるに越したことはないだろう」
イーグルの声が尻すぼみになるが、クロスは気にした様子もなく空洞に足を踏み入れた。
あっという間に姿が見えなくなった。
フレアはドキドキしながら見守っていた。
「大丈夫かな……?」
「大丈夫だ、すぐに来るといい。すごいものがある」
空洞の向こう側から、クロスの声が聞こえた。
フレアは胸に手を置いて、深呼吸をした。
「今回こそ何も壊さないようにしないと」
フレアは意を決して空洞に入っていく。
薄暗い空間にたどり着いた。奥は真っ暗な闇で、どこまで広がっているのか分からない。
周囲を見渡すと、無数の光る粒が飛び交っていた。
光は蛍のように明滅し、生き物であるかのように不規則に動いている。空間を縦横無尽に駆け巡るものや、クルクルと俊敏にらせんを描くものから、ゆったりとふらついているものまで、様々だ。
フレアは両目を輝かせて、歓声を上げた。
「綺麗……!」
「たしかに美しい光じゃ。じゃが、欲しがってはならぬぞ。各人間の魔力特性のデータが詰め込まれておる。相性の悪い魔力特性に触れると、身を滅ぼす危険がある」
奥から人影が現れた。白髭に同じ色の髭。
魔術学園グローイングの学園長グリームであった。
「ここは儂の魔力で保っている空間じゃ。誰かがここのデータを悪用しようと考えれば、魔術学園グローイングが滅亡の危機に瀕する。くれぐれも他言無用で頼むぞ」
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