戦い、決着
ローズの魔術で森がうごめく。
太い木の根や草花が、シェイドやセレネに襲い掛かる。
痺れる効果のある花粉をまき散らされると思い、セレネは警戒を露わにした。
一方で、シェイドは笑っていた。
「あんたの魔術は通じねぇよ。イービル・ナイト、ロバリィ」
太い木の根や草花が黒く染まり、ローズの意志に反してブライトに襲い掛かる。
しかし、ブライトは防ぐ素振りがない。
呪文を唱えて大地を蹴る。
「セイクレド・ライト、ブリリアント・スピア」
十文字槍が光り、一直線にシェイドたちに向かっていく。
セレネが微笑んで呪文を唱える。
「多少のダメージを覚悟したのですね。アクア・ウィンド、ルースレス・ナイフ」
見えない風のナイフがブライトに迫る。
黒い異形のものたちも、ブライトにいくつもの刃を振り下ろす。
食らえば命に関わる攻撃ばかりだ。
しかし、ブライトは迷いなく突撃する。
そんなタイミングで、ローズが魔術を消した。自らの魔術を、ブライトから、シェイドとセレネの意識をそらす囮と割り切っていたのだろう。
それを察したのか、クロスが魔力を放つ。
「カオス・スペル、リターン」
風のナイフが消える。
それだけでは異形のものたちは消えない。
闇と嵐の中では、シェイドたちの圧倒的な優位は変わらない。
フレアは、ブライトが異形のものたちに傷つけられ、倒される光景を思い出した。
「嫌よ……」
迷宮でフレアたちのために戦い、意識を失う重体になった。奇跡的に生きていたが、悲しくて悔しい想いをした。
あんな想いはこりごりだ。
「私に何ができるのか分からないけど……」
フレアの身体が赤い燐光を帯びる。
胸が熱く、脳内は焼けそうであった。
「もう後悔をしたくない! バースト・フェニックス、お兄ちゃんを守って!」
「フィジカル・アディション、パワー・チャージ、スピード・アップ」
フレアの他に呪文を唱えた人物がいた。
世界警察ワールド・ガードの長官グランドだった。全身に無理矢理に力を込めて、意識を保っている。
グランドの魔力で茶色い燐光を帯びたのは、ブライトだった。
「もう二度とブライトを傷つけさせぬ!」
グランドも、フレアと同じ想いを抱いたのだろう。
ブライトの身体はグランドの魔力で攻撃力とスピードが増し、フレアの呪文で炎をまとう。
燃え盛る火炎は神々しく、闇と嵐の術者たちを打とうとしていた。
しかし、彼らも何もしないわけではない。
「イービル・ナイト、オール・ロバリィ」
「アクア・ウィンド、ボルテックス・シールド」
ブライトを包む火炎に黒い闇が混ざりこみ、渦巻く盾が十文字槍と正面で激突する。
火炎と闇、そして十文字槍と盾の間で、エネルギー波が生まれる。エネルギー波は赤色、土色、黒色、白色、青色と目まぐるしく色彩を変えて、辺りに強烈な破裂音をまき散らしていた。
黒い異形のものたちが、フレアのもとへ駆けてくる。
刃を振り上げ、殺意にまみれて迫り来る。
そんな状況をクロスとローズが放っておくはずがない。
「カオス・スペル、エンドレス・リターン」
「フラワー・マジック、フォレスト・マーチ、ダンシング・ハーブ」
異形のものたちが黒い波動に沈められ、新たに出現した異形のものたちを太い木の根や蔦や草花が絡めとる。
ローズが高笑いをあげた。
高笑いに負けないように、クロスが声を張り上げる。
「フレア、そのまま聞いてほしい! このままではブライトさんはやられてしまう。ナイトメア・テンペストの影響が強すぎる!」
言われて、フレアは焦った。
ブライトを包む火炎が徐々に闇色に染まっている。いずれブライトを吞み込んでしまうだろう。
フレアは涙目になった。
「私の魔術のせいで……」
「諦めるな! そのために俺がいる。ナイトメア・テンペストはシェイドとセレネの合わせ技だ。一人で対抗するのは無茶だが、俺とおまえの魔力でどうにかなるかもしれない」
クロスはフレアの両肩に手を置く。
「イメージしろ。おまえの魔術はどこまでも届く。天空さえも支配できる」
フレアは空を見上げた。
暗く分厚い渦が巻いている。闇と雷を伴い、悪意と殺意を振り下ろしている。
「あの空に優しい光を灯すのね」
フレアは目を閉じて、脳内でイメージした。
幼い頃からブライトを初め、多くの人に愛されて守られてきた。
自分が与えられた優しさであり、他の人に与えたい優しさだ。
「私はみんなが大好きよ」
ホーリー家と血がつながっていなくても、家族であると確信できる。
ブレス王家だったとしても、絆は変わらない。
「かけがえのない友達も、今は敵として戦う人たちも、みんな祝福されてほしい」
フレアは両目を開けた。
クロスも呪文を唱える。
「バースト・フェニックス、カオス・スペル、エンドレス・ブレス」
フレアとクロスの周囲に、温かな光とカラフルな混沌が生まれる。
フレアが魔術学園グローイングでクリスタルを壊した時にあふれた、色とりどりの魔力特性の波に似ている。
しかし、あの時と決定的に違う面がある。
エネルギー波が生まれていないのだ。
お互いの魔力が反発することなく、受け入れ合っている。
助け合い、高め合っている。
カラフルな混沌を伴う温かな光は、ゆったりと、着実に周囲に広がる。
悪意と殺意に満ちた闇と嵐を、吞み込んでいく。
シェイドが狂ったように笑っていた。
「本気で面白れぇ! 大したもんだぜ、即席で合わせ技を成功させるなんてな!」
闇の魔術でブライトを包む炎を呑み込みながら、シェイドは残忍な笑みを浮かべた。
「もう学生なんて考えないぜ。ブレス王家とかどうでもいい。殺す、絶対に! イービル・ナイト、エターナル・ロバリィ」
闇はブライトを包む炎だけでなく、混沌を伴う光まで吞み込もうとする。
セレネが静かに呟く。
「お付き合いします。アクア・ウィンド、ルースレス・テンペスト」
猛烈な嵐に運ばれるように、闇は加速度的に広がる。
このままでは辺りは瞬時に闇に包まれるだろう。
そんな時に、耳につんざくような高笑いが聞こえた。
「予測しておりましたわ! 光と炎、そして混沌を一気に広めますわ。フラワー・マジック、ダンシング・フォレスト」
うごめく森が、ローズの意志で光と混沌の餌食となる。
まばゆい光が、輝く混沌が、一気に広まり、その場にいる全員の視界を奪った。
セレネが悲鳴をあげて両目を腕で押さえる。
シェイドはブライトを一瞬見失った。
ブライトも標的の姿が光にまぎれて見えない。しかし、長年世界警察ワールド・ガードのエースとして戦ってきた勘が、彼の身体を動かした。
そして、標的たちを確かに昏倒させた。
クロスが声を張り上げる。
「フレア、もういいだろう。今度は抑えるイメージをしろ」
「う、うん」
フレアは頷いて深呼吸をした。
胸の内が落ち着いた。
それを見計らって、クロスは呪文を唱える。
「カオス・スペル、エンドレス・リターン」
辺りに広がっていた光と混沌に、黒い波動が混ざりこむ。フレアが魔術を抑えるイメージをすると、それに応えるように光が薄くなり、それに続くように混沌も空気に溶けるように消えていった。
あとには優しい温もりと、朝焼けが残っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます