取り調べ
ローズとブライトがストリーム村に向かう頃に、フレアは世界警察ワールド・ガードの面々に囲まれていた。
みんな険しい顔付きで、警戒心を露わにしている。
とりわけ長官のグランドは両目を吊り上げて顔を真っ赤にし、敵意を色濃く示していた。
半分ほど溶けたハンマーを右肩に担いで、怒鳴り散らす。
「フレア! これはいったいどういう事じゃ!?」
「えっと……ハンマーが溶けちゃった事ですか?」
フレアは涙声になっていた。
ストリーム村に来てから何度かやらかした。
魔力を暴走させて、小屋の天井を吹っ飛ばしたし、グランドのハンマーを溶かしてしまった。
しかも、クロスもシェイドもいない状況で魔力が暴走した時があった。フレアも泣きそうになった。奇跡的に抑えられたが、かなり危なかった。
いずれも大問題である。
しかし、グランドの怒りの矛先はそのいずれでも無かった。
「悪夢の魔術師シェイドとその一味とつるんだ事に決まっているじゃろう! 何故あんな連中と慣れ合っていたのじゃ!?」
「な、慣れ合っていません。魔力を暴走させた時にシェイドが止めてくれたから、お礼にポーション作りをしていたんです」
フレアは震えながら、なんとか状況を説明した。
グランドの顔面が耳まで真っ赤になり、鬼の形相になる。全身に、湯気が出そうな熱を帯びている。
「奴らに弱みを見せた挙句にポーションまで作ったのか!?」
「エリクサーも作りました」
「ますますひどいぞ!」
グランドは鬼の形相のまま、まくし立てる。
「悪夢の魔術師シェイドは、犯罪組織ドミネーションの幹部として様々な悪行を主導してきた。ブレス王国を初め数多くの国や文化が滅んだのは、奴のせいじゃ。正義のために戦った同胞たちがどれほど殺されてしまった事か……。そんな人間に、いや悪魔にポーションやエリクサーを作ってやるなど言語道断じゃ!」
「……ごめんなさい。私もお兄ちゃんを傷つけられて、怒りを感じていました」
フレアは震えたまま頭を下げた。
「悔しくて、悲しい想いをしました。しかし、私の魔力の暴走を止めた事を恨むつもりはありません。もしもシェイドがいなかったら、この辺りは焼け野原になっていたと思います。それこそ罪のない人たちが犠牲になっていたと思います」
フレアが訴えかけると、グランドは息を呑んだ。
一呼吸置いて語り出す。
「……あの男がそこまで考えたとは思えぬ。しかし、あの男がいなかったらもっとひどい状況になっていたとは考えられるのぅ」
グランドから鬼の形相が消える。たくましい茶色い髭をいじって、遠い目をしていた。
「イーグルはあの男を仕留める事を渋っているように見える。魔術学園グローイングに通っている間は真面目で勤勉な生徒だったらしい。口数が少なくて、何を考えているのか分からなかったとも聞いたが」
グランドは噛み締めるように言っていた。
フレアは頭を上げて、悲しそうな表情を浮かべる。
「勤勉だったのは本当だと思います。ポーション作りを教えてもらったのですが、お手本は本当に鮮やかでした」
「なるほど……お主の言葉は信じよう」
グランドは溜め息を吐いた。
「本当に残念な男じゃ。あとは、クロスがどんな情報を仕入れたか確認しよう」
「クロス君は助かったのですね!」
フレアは両目を輝かせて、歓声をあげた。
グランドは気まずそうに頷く。
「クロスには、死なないように手加減をしてやった。今頃川下にいるはずじゃ」
「ありがとうございます、すぐに行きます!」
フレアは世界警察ワールド・ガードの面々の輪をかきわけて、川下へ走っていく。
グランドは慌てて追いかける。
「コラ、待て! クロスといい、お主といい、近ごろの若者はみんな儂を置いていきおって!」
その頃、クロスはしどろもどろになりながら世界警察ワールド・ガードの面々に説明をしていた。
世界警察の一員が貸してくれたタオルで頭を拭きながら、一生懸命に状況を思い出していた。
「俺はフレアに状況確認をしていましたが、何も分からないまま長官にぶっ飛ばされました」
世界警察の面々が怪訝な顔つきになる。
「何を言っているのか分からないのだが……」
「あまり状況が理解できず、妙な説明となってすみません。しかし、シェイドが川下に逃げたのは目撃したので、追いかけるべきと考えます」
クロスは精一杯の状況説明をしたが、世界警察の面々は互いに顔を見合わせた。
「彼は犯罪組織ドミネーションの元エージェントだよな。本気の説明がこんなものなのか?」
「いや、わざと情報を隠しているのかもしれない。引き続き取り調べをしよう」
そんな会話が聞こえてきて、クロスは溜め息を吐いた。
「人に疑われるのは辛いものだな。フレアには本当に悪い事をしたな……」
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