ストリーム村

ストリーム村

 フレアとセレネが村に降り立つと、歓声が沸いた。

「セレネさん、おかえり!」

「今度はその子に救いを与えたのですか? 可愛い女の子ですね」

 可愛い女の子とは、フレアの事だろう。大人から子供まで集まってきた。興味津々のようだ。

 フレアは気恥ずかしくなって俯いた。

 そんなフレアに、ゆっくりと近づく老人がいた。

「照れなくて良い。見れば見るほど愛らしい子じゃ」

「あ、ありがとうございます」

 フレアは緊張のあまり、うまくお礼を言えた自信が無かった。

 老人はふぉっふぉっふぉっと大らかに笑った。

「肩の力を抜きなさい。服装の質から察すると、いい所のお嬢様のようじゃのぅ。名前は?」

「フレア・ホーリーです。よろしくお願いします」

 ブレス王家である事は、フレア自身に実感がない。ホーリー家だと、ごく自然に口から出ていた。

 その瞬間に、空気が変わった。

 老人が腰を抜かし、興味津々だった集団の眼差しが敵意や警戒に染まる。


「ドミネーションを散々苦しめたホーリー家か」


「世界警察ワールド・ガードのエースがいたよな」


 フレアは戸惑った。

 日頃、敵意や警戒を向けられた事がない。対処の仕方が分からない。

 ホーリー家が信用されていない状況なんて初めてだ。

 この村では、フレアの言葉を信じる人がいないのかもしれない。

 しかし、主張するべき事は言葉にするべきだろう。


「ホーリー家は悪い家じゃないよ」


 そう言って、腰を抜かした老人を引っ張って立たせた。

「驚かせたみたいでごめんなさい」

「う、うむ。素直に謝るとは……ホーリー家にもいい子はいるようじゃのぅ」

 老人が安堵の溜め息を吐くと、敵意や警戒心は和らいだ。代わりに驚きや戸惑いが生まれている。

「本当にホーリー家か?」

「相手がブライトだったら、ドミネーションに肩入れしただけで殺されたかもしれなかったよな……」

 フレアは首を横に振った。

「お兄ちゃんは罪のない人を殺すなんてしないわ」

「お兄ちゃん!?」

「やっぱりホーリー家なのは間違いないのか!?」

 村人がざわつく。

 フレアは毅然とした態度を取る。


「ホーリー家がこの村に悪事を働いた事はないと思うわ」


「確かにこの村に直接手を下す事はありませんでした。しかし結果的に苦しめてきたのですよ」


 セレネが口を開いた。

「ドミネーションはこの村を積極的に支援しています」

「そうなの!?」

 フレアの両目は見開き、声は裏返った。

「この村と犯罪組織ドミネーションにつながりがあるなんて知らなかったよ!」

「犯罪組織なんて酷い誹謗中傷です。ドミネーションはか弱い人々に手を差し伸べてきました。私も差し伸べられた一人です」

「セレネも?」

「はい。奴隷として売り飛ばされる所を救われました。神の御使いが来てくれたと思いました。神の御使いと呼ぶと、ものすごく怒られるのですが」

 セレネは両手を合わせて、遠い目をしていた。

 フレアは感心しながら聞いていた。

「いい人がいるんだね。どんな人だったの?」

「背が高く、痩せた銀髪の男性でした。お礼に身体を捧げるつもりでしたが、ただの遊びで奴隷商を倒しただけだと言って何も受け取ってはくれませんでした」

 セレネは残念そうに溜め息を吐く。

「私はまだあの方にお礼ができていません」

「そうなんだ……」

 フレアは曖昧に頷いた。

「私もみんなに恩返しができなくて、悩んでいるの」

「恩を返すのは難しいですよね。ですが、私はあなたが羨ましいのです。ホーリー家なら高い魔力を持っているでしょう」

「魔力は高いかもしれないけど……制御ができないの」

 フレアは自分の悩みを赤裸々に告げた。


「魔術の制御ができなくて、いろいろな人に迷惑を掛けたわ」


「魔術の制御なら、神の御使いの専門ですよ!」


 急にセレネの目が輝いた。どことなく興奮しているように見える。

「あなたは神の御使いに教えを乞うべきです!」

「そんなに親切な人がいるの?」

「あなたの態度次第です。全力でドミネーションに尽くせば、きっと指導してくれますよ」

 セレネが微笑みかける。

「決めるのはあなた次第です。あなたにドミネーションの加護があらん事を」

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