魔術学園の東へ

道中で

 フレアとクロスは、魔術学園グローイングの東にあるストリーム村に向かう。

 道中はなだらかな道が続く。元気に生える草花が道端を彩る。

 安らぎを与えてくれる。

 気候も穏やかで、フレアは快適なピクニックを楽しむ気分であった。自然と足取りが軽くなる。

「見て! 蝶々が飛んでいるわ!」

 フレアは興奮気味に、黄色い蝶々を指差した。温かな風の中で、可憐に舞っている。

 やがて蝶々は白い花に止まり、羽を休める。

 フレアはうっとりした。

「素敵ね」

「そんなに珍しいか?」

 クロスは首を傾げた。

「俺にはありきたりな自然に見える」

「クロス君はいつもこんな素敵な景色を見ているの?」

「素敵な景色とは限らない。気持ち悪い虫が大量にわく事もある」

「やめて! そんな事を言わないで!」

 フレアは耳を塞いで首を横にブンブンと振った。

 クロスは頭をかいた。

「そんなにマズイ発言だったか?」

「夢を壊されたわ」

 フレアはため息を吐いた。

 クロスはフレアの肩をポンッと叩く。

「いつか見る現実だ」

「クロス君はもう少し乙女心を学んでもいいと思う」

 クロスは両腕を組んで考え込んだ。

「無理難題だな。乙女心の具体的な定義が不明瞭だ」

「すぐに諦めてほしくないと思うけど……無理をさせられないわね」

 フレアは気を取り直してスキップをする。

「夢を見られる間は楽しむわ! クロス君がくれた堅焼きパンを食べるのが楽しみよ」

「フレアが気にいるといいな」

 クロスは微笑んだ。

 二人は笑顔を浮かべて、幸せな時間を過ごしていた。


 そんな二人を、遠くから監視する人影があった。


 男二人と、女が一人。全員が黒い修道服を着ている。

 女は腰まで伸びた銀髪を風に踊らせて、含み笑いを浮かべた。

「フレアとクロスで間違いないですね」

「セレネ、俺たちだけで片付けてもいいんじゃね?」

 炎のように逆立つ赤い髪を生やす、目つきの鋭い中肉中背の男が口を開いた。

「あいつらぜってぇ油断している」

「ダメですよ、ダスク。シェイド様が苦戦した相手です。しっかりと作戦を組みませんと」

「それもそうか」

 ダスクはあっさり了承した。

 一方で、黒い短髪の丸っこい男は不満そうだ。

「おいらは早く片付けて、美味しい物を食べたい」

 セレネは呆れ顔になった。

「グリード、あなたはいつも食べる事ばかりですね。シェイド様より食べないように、何度も言っていますのに」

「シェイド様がもっと食べればいいんだ。おいらは何も悪くない」

「少しは遠慮を覚えてください!」

 セレネの顔が真っ赤になる。

 ダスクとグリードはギョッとした。セレネを怒らせると怖いのは、二人はよく知っている。

「さ、作戦を実行しようぜ」

「シェイド様の役に立つんだ」

 二人の説得に、セレネは両手を合わせて、ポンッと小気味よい音を鳴らした。

「そうでしたそうでした。無駄話はこれくらいにして、作戦に移りましょう」

 説得の成功を確信して、男二人は歓喜の声を上げた。

 グリードが両手を地面に付ける。

「ディストラクション、カタストロフィ」

 グリードが魔力を放つと、恐ろしい変化が訪れる。

 轟音を立てて、地面が崩壊した。地割れが起きて、大地がゆがみ、離れていく。

 そんな様子を見ながら、ダスクは両手で拳を作った。

 ニヤつきが止まらないようだ。

「ダーク・ファイア、インフェルノ」

 大地の裂け目から強烈な炎が舞い上がる。炎は黒い影を引き連れて、地上の草花を蹂躙していく。

 大地の裂け目も炎も、異様な速さで広がっていく。地獄のような景色の広がりが止まらない。

 フレアとクロスが異変に気づく頃には、まともな足場が少なくなっていた。

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