打開策
学園長室は物々しい雰囲気になっていた。
学園長のグリームが分厚い白い髭をいじって歯ぎしりをしていた。悩んでいる時の癖が出ているし、傍目でイラついているのが分かる。
「もはや一刻の猶予もないというのに……」
窓の外を見ながら、グリームは苦々しく呟いた。魔術学園グローイングを一望しながら思案していた。
ブレス王家の生き残りがいる事が犯罪組織ドミネーションに知られた挙句に、世界警察ワールド・ガードのエースであるブライトが戦闘不能に陥っている。冷静になるべきだと頭では分かっていても、焦りにかられてしまう。
そんなグリームの心情を悟ってか、グランドは豪快な笑いを控えていた。
「お主も大変じゃのぅ」
「これからもっと大変な事になるだろう。しかし、まともに備える事ができぬのだ」
犯罪組織ドミネーションの動きは神出鬼没だ。組織内の魔術師に力量の差があるのは分かっているが、今回のように突然幹部が動く事がある。
未知の恐怖。
これが犯罪組織ドミネーションの最も恐ろしい部分だ。対策をたてようがない。
「魔術学園グローイング崩壊の危機と言っても過言ではない」
グリームの言葉に、グランドは頷いた。
「そうじゃのぅ。打開策を考えてみたが、効果があるかは分からぬのぅ」
「打開策じゃと?」
グリームがグランドに視線を移す。両目が希望で光っている。藁にもすがる想いなのだろう。
「すぐに聞かせてくれ」
「情報を集めるのじゃよ。これまで儂らは情報が集まらないせいで踊らされていた。相手の事が全く分からないから対策の打ちようが無かったのじゃ」
グランドの話を、グリームは何度も頷きながら聞いていた。
グランドは続ける。
「残念ながら世界警察ワールド・ガードの信頼は地に落ちている。そこで、儂らとは関わりのない人間が情報収集にあたる事を提案する」
「例えば誰じゃ?」
薄々感づいているが、グリームはあえて尋ねた。思い込みにより齟齬が生まれるのを避けたい。
グランドは一呼吸置いてからゆっくりと答える。
「クロスとフレアじゃ」
「クロスは分かるが、フレアも?」
グリームは意表を突かれた。
一方で、グランドは当然のように頷いた。
「クロスは元ドミネーションのエージェントじゃ。おそらく情報収集は得意じゃろう。フレアはクロスと行動を共にする必要がある。ブライトが動けない今は、彼女の暴走を抑えられるのはおそらくクロスだけだからのぅ」
「なるほど」
グリームは真顔で頷いた。
フレアの数々の破壊活動は痛いほど耳に入っている。
「いいじゃろう。イーグルに二人をここに呼んでもらおう。念入りに作戦を話し合ってくれ」
「学園長室に呼び出しなんてやったら目立ってしまう。二人は保健室で待機しているから、そこで話しておく。内容は後で必ず報告するから待っていてくれ」
「部外者に聞かれないか?」
保健室はどんな教師や生徒にも開放されている。
グリームの懸念は最もだ。
しかし、グランドはニヤリと口の端を上げて、巨大なハンマーを軽々と振ってみせた。
「誰かに聞かれそうになったら、長年の経験で悟ってみせる。心配するな」
「分かった。任せるぞ」
グリームは髭から手を放した。迷いが消えて、信用する事にしたのだ。
グランドは親指を立てて学園長室を歩き去った。彼が歩くたびにズシンズシンと振動していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます