魔術学園の目的
授業開始のチャイムと共に生徒たちは席に着き、イーグルが教壇に立った。
「随分と、風通しのいい教室になったな」
眉をピクピクさせながら声を振り絞っていた。
「学園長は才能豊かな人材だと褒めていたが、担任として受け持つ俺の身にもなってほしい」
「ごめんなさい、本当にごめんなさい! その……修理代は将来働いて返します」
フレアは何度も平謝りをした。
イーグルは溜め息を吐く。
「魔術を適正に扱う人材を育てるのが魔術学園の役割だ。生徒に弁償や修理を求める事はない。安心しろ」
イーグルが咳払いをする。
「まずはおめでとう。上級科にいるのは一定以上の能力を持つと評価されたという事だ。魔術学園に初めて授業を受ける生徒がいるため、簡単におさらいをする」
イーグルが本を広げると、立体的な黒い幾何学模様が浮かび上がった。
それが魔法陣だと気づいた時に、フレアは感動で震えた。
「すごい」
「さすが魔術学園だな」
クロスの両目も輝いていた。
魔法陣は徐々に色彩が変わった。土色、青色、赤色、白色の四色がグラデーションをして混ざり合っている。
「この世界には主に四元素の魔術が存在する。地水火風だな。この四元素の力を引き出して超自然的な現象を引き起こす事を魔術と呼ぶ。魔術学園グローイングは、この魔術を適正に操る人材の育成を目的としている。しかし上級科のおまえたちにはもっと踏み込んだ事を教える事とする」
イーグルは一呼吸置く。
「魔術を適正に操る人材を育成する目的の一つは、ドミネーションと名乗る犯罪組織を撲滅するためだ」
イーグルの眼光が鋭くなる。
「ブレス王国を初め平和に暮らしていた多くの国や文化が滅ぼされた。ドミネーションが圧倒的な力を持つせいで、略奪、人身売買、虐殺など数多くの悪行が横行している。教師陣は世界警察ワールド・ガードと連携して対応しているが、目標達成まで程遠い。ドミネーションの勢力の拡大は異常だ。任務中に命を落とした魔術師は少なからずいる」
固唾を呑む生徒たち。
イーグルは続ける。
「故郷に恋人が待っている、ドミネーションが怖くなったなど、死にたくない人間は個々に申し出ろ。対ドミネーション部隊に入らないように優先的に考慮する。士気を下げられる方が迷惑だからな」
「あら、私がいれば犯罪組織ドミネーションなんて恐れる理由はありませんわ!」
高らかに宣言したのはローズであった。
その場で立ち上がり、耳をつんざくような高笑いをあげる。
耳をふさぐ生徒がいたが、ローズはお構いなしだ。
「この私に出会えた事を幸運と思いなさい! 姓はクォーツ、名はローズ。私の才能は魔術学園を繁栄させるのですから、大事になさい。逆らえばクォーツ家が黙っていませんので、そのつもりでいなさい」
まばらな拍手が響く。
イーグルは咳払いをする。
「ローズ、魔術学園で家系は関係ない。生徒たちを脅かすような発言は控えるように」
「あら、真実ですのに」
「ローズはフラワー・マジックを操る優秀な魔術師だ。彼女から学べる事は多いだろう。みんな、可能な限り仲良くしてやってくれ。ついでに新入生にはみんな自己紹介をしてもらおう。次はクロス!」
不満そうなローズをスルーして、強引にクロスに話を振る。
クロスは席を立って、一礼する。
「クロスです。姓はありません」
姓がない。この言葉にどよめきが起こる。姓がないのは平民以下の証。通常なら貴族階級が集まる魔術学園に在籍するのは、異例である。
しかし、クロスは堂々としていた。
「憧れの魔術学園に入学できて光栄です。皆様と一緒に切磋琢磨していきたいので、よろしくお願いします」
盛大な拍手が沸く。
イーグルが深々と頷いた。
「彼はカオス・スペルを操り、クリスタルでレベル99を記録した。今まで噂になっていなかったのが不思議なくらい、とんでもない実力者だ」
「勿体ないお言葉です」
「謙虚な姿勢も良い。困った事があればどんどん相談するように。最後にフレア!」
「は、はぃぃいい!」
クロスが着席すると同時に、フレアは慌ててその場に立った。
「フレア・ホーリーです! 頑張って魔術を学んで立派な魔術師になりたいです。分からない事がたくさんあって足を引っ張ったらごめんなさい」
「いきなり足を引っ張るという宣言をするなんて、なんてひどい志でしょう! 家名が泣きますわ!」
ローズがわざとらしく悲しそうな表情を浮かべる。
イーグルが眉をピクリと上げる。
「ローズ、フレアは分からない事も健気に頑張りたいだけだ。魔術は未知な現象が多い。おまえの才能は素晴らしいが、一番良いものとは限らない。常に学ぶ姿勢を大事にしてほしい」
「私なら周りの足を引っ張るなんて考えられませんわ!」
「フレアはなんとクリスタルを破壊した猛者だ。驚異的な魔力を持っている。いつか必ず活躍するだろう。それでは授業を始める」
「ちょっと!? この私をないがしろにしないでくださる!?」
ローズが騒ぐ。
クロスが露骨にため息を吐く。
「ローズ、品のある言動を心がけたらどうだ?」
「あら、平民以下風情が生意気ですこと」
「俺に対する文句なら後でいくらでも言ってもいい。だが、授業の妨害をして先輩方の足を引っ張る事はないだろう」
ローズは赤面する。周囲の冷たい視線に気づいたのだ。
「後で見てらっしゃい」
ローズは着席して、それ以降は授業に集中した。
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