第二部 中華世界転移人子孫の里編
第30話 双子急襲
城からの帰り、馬に乗るクラウスが帰路を急いでいた。
既に辺りは暗くなっているが、屋敷の門の近くまで来ていた。
(やっと、ついたか。ノエルもフローラも待ってるな)
その時、左の草むらから人影が飛び上がり、長い棒のような物でクラウスに突きを入れてきた。
クラウスは腰の剣を抜き、突きを剣でさばく。
(槍か!)
棒の正体は槍だった。
人影はそのまま右の草むらの中に消えた。しかし、間髪入れず、再び、人影が飛び上がり、槍で顔を再び突いてきた。
剣で槍をはじいて、クラウスは叫ぶ。
「誰だっ?」
それには答えず人影はまた草むらに消えた、その瞬間、再び槍に襲われる。
(速い!)
人影の攻撃の間隔がドンドン速くなっていく。
(速い、速すぎる!、なんだこの攻撃は!)
馬上でバランスが崩れ始め、自ら馬から飛び降り、剣を構える。
その頃、屋敷の玄関、ノエルとフローラが門の方を見ながら、クラウスの到着を待っていた。
「お兄様、どうされたのかしら」
ノエルは門の外からかすかに聞こえるキンキンという剣がぶつかるような金属音に気づいた。
「この音は!」
剣を構えるクラウスの前に、槍を真っ直ぐ構える十四,五歳の少女の姿があった。
服は身体の前で左右を合わせ、腰に巻かれた帯でとめている。
武闘着のような服で赤地の布に衿は黒、短いズボンをはく姿は、明らかにガリアンの服ともタルジニアの服とも違っていた。
「女、いや、子供か⁉」
ポニーテールの黒髪が見えた。
「黒髪!」
少女は槍を構えたまま、クラウスめがけて駆けていき、、顔に向かって真っ直ぐに槍を突き出す。
頭を傾けて間一髪のところでかわし、剣で槍の柄をはじくが、少女の後ろから、全く同じ姿の少女が現れて槍を突き出してくる。
「なにっ!?」
今度は槍をかわす余裕がなく、とっさに剣の腹で穂先を受ける。
初めの少女の槍が振り下ろされるが、二本まとめて、剣で弾き飛ばす。
クラウスの前に、全く同じ容姿の少女が二人、同じ格好で槍をクラウスに向けて構えて立った。
「双子か!?」
槍を手に門から駆け出てきたノエルは、少女たちの姿を見た。
アッと驚いたが、やれやれとばかりにため息をつくと、腕組みをして戦いを見物し始めた。
双子の槍はクラウスを突き、上から振り下ろされるが、全て長剣ではじかれ、さばかれる。
戦いが長引くにつれ、体力差が現れ始め、剣ではじかれた少女たちの身体が揺れる場面が増え始めた。
クラウスは一人の少女の前に踏み込み、上から剣を槍の柄に叩きつけ、柄が下がったところを足で地面に踏みつけた。
もう一人の少女がクラウスの胴に打ち込もうとしたところを、剣で止め、そのまま槍の柄を脇に抱え込んだ。
槍を押さえ込まれ、二人の少女は何とかしようともがくが、ピクリともしない。
「そこまでだ、セリア、クロエ!」
そばに寄ってきたノエルが叫んだ。
ノエルはクラウスの前に進み出て、申し訳なさそうにクラウスを見る。
「すまぬ、クラウス。妹たちだ」
「やはり、そうか。まったく……」
クラウスは、剣を腰の鞘に収めながら,やれやれとため息をついた。
「紹介しよう、妹のセリアとクロエだ。今年、十四だったな」
ノエルはソファーの隣のクラウスに、正面に座る双子を紹介した。
「初めまして。セリアです。さすが姉上の選ばれたお方、兄上の剣の腕、感服いたしました」
「……クロエです。すみませんでした」
セリアがハキハキとしゃべるのに比べ、クロエはもじもじと話した。
「我らが二体一心の突き、かわしたのは母上と姉上に次いで、三人目です」
セリアがクラウスをほめるように言うが、クラウスはあきれ顔。
「当たってたら、死んでたかも知れないぞ」
「その時はその時。『そんな弱い婿は要らん、やっておしまい』との母上の言葉です」
クラウスは、あきれ顔で横に座るノエルを見る。
「お前のお母さん、すごい人だな……」
ノエルは頭を抱えつつ、妹たちに聞く。
「それで、お前達、こんなとこまで、なにしに来たんだ?」
クロエがモジモジしながら答えた。
「以前の住所に手紙を何通出しても返事来なかったですし、クラウスさんと婚約されたってニュースは伝わっても何の連絡も無かったですし……」
ノエルはそばに立つ、アレットを見た。
「連絡しなかったっけ?」
アレットは首を横に振った。
「すっかり、忘れてた……」
ノエルは頭を抱えた。
「母上から、お手紙を預かってきました」
そう言って、クロエは何重にも折られた紙をノエルに渡した。
ノエルは横に長い紙を広げて読み始めた。
「げっ……」
ノエルの顔色が変わったのにアレットが気づいた。
「どうされました?」
「もうじき、四家論剣だった。それと……」
向き直ってクラウスを見る。
「婿殿……、クラウスを連れて帰って長老たちに会わせて結婚の承諾をもらえ、だと」
「えっ、俺も行かなきゃいけないの?、ノエルの実家に?」
クラウスは驚きながらノエルに言うが、ノエルはイヤそうな顔でうなづいた。
「うわー、ホントにそっくり」
フローラがセリアとクロエを見て驚いた。
「フローラの金髪、すごくきれい」
「ホントにお人形さんみたいです」
歳が近いこともあり、三人はすぐに打ち解けた。
「里のみんなにも見せてあげたいなあ……」
フローラがクラウスを振り返って言う。
「お兄様、あたしもノエルさんのお家、一緒に行きたい!」
「うーん……」
クラウスは意見を求めるようにノエルを見た。
「途中までは馬車で行けるし、そこからは馬でいけるから移動はたいしたことないが……」
「里でのお世話は、あたしたちがしますから!」
セリアとクロエも懸命に頼んだ。
クラウスは、うーん、と考え込む。
「一人でここに残しておくのも、心配ではあるな……」
「イエルクに預かってもらうか?」
「それはダメだ!」
こうして、家族総出での初のノエルの実家への帰省が決定した。
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