第29話 決着 【第一部完】
ガリアンの王立コロシアム、円形の闘技場を囲む観客席が、ぎっしりと埋まり観客が歓声を上げる。
「剣帝-、がんばれよー」
「クラウスさまー」
「槍姫、足ひっぱんなよー!」
闘技場の中央にクラウスとノエルが立っている。二人とも動きやすい、軽甲冑を着ている。
ノエルの手には二メートルほどの槍、背中には同じ槍がX字型で二本、背負われている。
ノエルがクラウスを見て笑う。
「やはり、ガリアンでは、剣帝の人気に勝てないな」
ノエルは一歩進み出て、槍を両手で持ち、派手に何度も旋回させた後で、ピタッと構える。
観客から、ワーと言う歓声が上がると、それに応えるように、槍を高々とかかげる。さらに多くの歓声が上がった。
「いいぞー、槍姫!」
「カッコいいー」
クラウスが感心したようにノエルを見る。
「お前、場慣れしてるなあ……」
「昔、英雄としての演技指導をイヤというほど受けさせられた」
ノエルは少し照れたように言った。
観客席の最前列で、ガリアン王とゲルドが並んで観戦している。
「すごい盛り上がりじゃのう」
ゲルドは愛想笑いを浮かべて言う。
「これも、三国、友好の証しというものでしょう」
闘技場の中央で、クラウス、ノエルとデミル姉弟が戦いの前の挨拶を交わす。
クラウスは握手の手を差し出すが、無視される。
バリスがノエルを見てヘラヘラと笑う。
「てめーが槍姫か、『黒コゲの槍姫』にならないように気をつけな」
「あぁーん?、なんだとー」
バリスにガンを飛ばすノエルをクラウスが手で制した。
二組は左右に分かれた後、数メートル離れて対峙する。
バリスはベルナから数メートル後方に位置を取った。
バリスの位置を見て、ノエルが不思議そうにつぶやく。
「ずいぶん、下がってるな」
「左右から回り込まれたとき、後ろから狙うんだろう」
クラウスが敵の陣営を見つめながらノエルに言った。
「はじめー!」
登場に大声が響いた。
声と同時に、ノエルはいきなり背中の槍の一本をベルナにブンッと真っ直ぐ投げつける。
同時にクラウスと一緒に地面を蹴って前に進む。
「ヒッ!」
ベルナは間一髪で槍をかわすが、クラウスとノエルが近くに迫ってくる。
右手を差し出し、手を開くと手の平の魔方陣を中心に薄い青い氷のようなシールドが現れた。
「無詠唱か!」
驚くクラウスだが、ノエルは構わず、両手で持った槍で力一杯シールドを突く。
ピシッ、とヒビが入った。
ベルナはアッと驚く。
「なにっ!?」
「クラウス!」
ノエルが叫ぶ。
ノエルの声に呼応するように、クラウスは大上段から長剣をヒビの部分めがけて振り下ろす。
パリーン、とシールドが砕け散った。
「シールドが!」
目を見開いて驚くベルナに構わず、シールドの裂け目からノエルとクラウスは左右に分かれて前に走る。
バリスは前方の光景に焦りを感じながらも詠唱を続ける。
やっと詠唱を終えると、バリスの剣が炎に包まれ、真っ直ぐ炎の剣が伸びていく。
「こっちか!」
バリスはノエルに狙いを定め、炎の剣を横に払う。
「おっと」
ノエルは向かってくる炎の剣を見て、槍の石突を地面につけて、上にジャンプして炎をかわす。炎が当たった金属の柄がドロッと溶けたのが見えた。その様子にノエルは目をむく。
「おいおい!」
ノエルにかわされ、バリスは剣を引き戻そうとする。
ノエルは地面に突いた槍から手を放し、前方に着地しつつ、背中の槍を抜き、両手で大上段から高速でバリスの剣を打ち据えて動きを止める。
同時に、右からはクラウスの長剣がバリスの頭部に振り下ろされ、当たる直前でピタッ、と止まった。
バリスの目は恐怖に見開かれる。
クラウスは軽く、剣の腹でコン、とバリスの頭を叩く。
「終わりだ」
目を見開いたまま呆然のバリス、炎の剣はドンドン短くなり、消えてなくなった。
今まで静まっていた観客からいっせいに、ワーと歓声が上がった。
ノエルは観客の方を向き、槍を高々と掲げた。
さらに、クルクルと両手で旋回させて、ピタッと構える。
観客から、さらにワーッ、と大きな歓声が上がった。
ノエルはただ立っているだけのクラウスを非難げに見る。
「クラウス、お前も、ちゃんと観客に応えろ」
「あ、ああ……」
クラウスは恥ずかしそうに、剣を高くかかげた。
観客からさらに大きな声で歓声が上がる。
「いいぞー、剣帝!」
「槍姫、ナイスアシスト!」
「こういうのは、照れてはダメだぞ」
ノエルは、そう言って、クラウスの手を取り、高くかかげた。
「いいぞー、剣帝、槍姫-!」
二人は拍手と歓声に包まれた。
ノエルはクラウスの手をかかげたまま、不思議そうにクラウスを見る。
「ところで、クラウス」
「なんだ?」
「この試合はなんだったんだ?、わたしたちのお披露目か?」
クラウスも首をかしげる。
「……俺にもよくわからん。あとで王に聞いとく」
観客席では、ニコニコと拍手を送っているガリアン王の隣で、ゲルドが苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべている。
「イヤー、一瞬じゃったのう。剣帝と槍姫、二人の息はぴったりじゃ」
ゲルトは愛想笑いを浮かべる。
「まさに、ガリアンとタルジニアがうまくいく象徴ですな、ハハハ」
笑いながらも悔しそうな目は、もうあの女に関わるのはやめよう、そう言いたげな目だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます