第28話 神聖アゼリア国の英雄、デミル姉弟-炎剣のバリスと魔盾のベルナ

 王宮の一室、テーブルを挟んで座るガリアン王と神聖アゼリア帝国の外交官ゲルドがにこやかに話している。


「交流試合じゃと?」

 ガリアン王はゲルドの提案に意外そうな声を上げた。


「はい、我らアゼリアには貴国の三剣のような英傑はおりませんが、魔法と剣との融合の研究を進めておりまする」

「ふむ、アゼリアは魔法については、ガリアン、タルジニアよりも進んでおるからのお」

 ガリアン王は、なるほどとうなずいた。


「そこで、今のレベルでどこまで、貴国の英傑に対抗できるか、試してみたいと思う次第です」

「ふむ……」


「公開の御前試合と言うことで、両国のこうした交流を民が見れば、平和を実感できるのではないですか?」

 ゲルドは揉み手しながら話を続ける。


「さらに、今、貴国にはタルジニアの女傑、槍姫もおられる。どうでしょう、男女ペアでの二対二でガリアン、タルジニア、アゼリア、三国交流というのは?」

「それは面白そうじゃ。こちらは当然、剣帝と槍姫となるが、貴国には彼らに匹敵する者がおられるのか?」

「適任がおります。炎剣のバリスと魔盾のベルナ、デミル姉弟と申します」


 ゲルドはニヤーとずる賢そうな笑みを浮かべた。




 クラウスの屋敷。クラウスはリビングのテーブルを挟んで座るノエルとアレットに困ったなあ、という顔を見せる。

「……というわけだ。相手は魔法を使うらしい」


 ノエルは首をかしげつつアレットを見る。

「炎剣のバリス、魔盾のベルナ。デミル姉弟……、知ってるか?」


 アレットは首を横に振る。

「聞いたこともありません。調べてみます」

「俺も全く知らん。アゼリアの事情は、外に伝わってこないからなあ……」


「魔法と剣の融合ってのもよくわからん」

 ノエルが首をかしげた。


「やめとくか?、正直、公開御前試合というのも気に入らん。剣は見世物ではない」

「まあ、いんじゃないか?、魔法というのも興味あるし、実戦もしばらくなかった。公開試合はよくやらされたもんだ」


 クラウスは不思議そうにノエルを見た。

「戦勝祝賀会とかで、一対二の模範試合とか、手練れの捕虜相手にして、わたしに勝ったら解放してやる、とか、よくやらされたもんだ」

「なんだそりゃ……」

「英雄のご公務、だそうだ」

 うんざりという顔でノエルは言った。


「水着で歌って踊れ、というのもありましたね」

「さすがに、断ったけどな」

 ノエルとアレットは昔を懐かしむように声を上げて笑った。


「サンドラ王女か……」

 クラウスはあきれ顔。




 ゲルドの屋敷の一室。

 ゲルドと若い男女が薄暗い部屋で話をしている。女は青く長い髪、姉のベルナ・デミル。男は青い髪の短髪、弟のバリス・デミルだった。


「ゲルド殿、殺したって知りませんよ。バリスの炎剣、寸止めとか無理ですからね」

「構わんよ。だが、殺すなら槍姫だ。剣帝が助けきれずに殺された、そういう風になるのが一番良い」


「へっ、そんなに、うまくいくかわかんねーよ、二人ともやっちまったって文句言うなよ」

「それも構わん。タルジニアを刺激できればそれで良い。バカなガリアン王に見世物にされて殺された、それで十分じゃ」

「じゃあ、丸焼きにして『黒コゲの槍姫』といこうか」

 バリスは愉快そうに声を上げて笑った。


「久しぶりに、見せてみよ、おぬしの炎剣」

「ああ、いいぜ」

 バリスは剣を抜き、目を閉じてブツブツと詠唱を唱え始めた。


 ゲルドが冷たい目でバリスを見る。


「あいかわらず、遅いのお」

「詠唱の長さは、魔法の威力と相関しますので。威力ある魔法ほど、時間がかかります。その間は……」


 ベルナは右手をかかげて手の平を開く。手の平には小さな魔法陣があり、そこから周囲に青い透明な氷のようなシールドが広がっていった。

「この魔盾にて、時間を稼ぎますので」


 バリスの詠唱が終わり、剣の刀身に沿って十メートルはあろうかという長い炎が現れた。

 バリスがブンッと剣を振るうと、炎の剣は離れた青銅の胸像を肩から真っ二つに切り裂いた。


「殺したってしらねーぜ」

「ほっほっほ、かまわんよ」

 ゲルドは笑った。




「まず、姉のベルナ・デミル。二つ名は魔盾のベルナ」

 クラウスの屋敷の一室で、アレットがノエル、クラウスを前に調査結果の報告をしていた。


「魔法による縦横数メートルのシールドを展開して、敵の前進をくい止めます」

「そのシールドってのは、槍で突き破れないのかな?」

 ノエルは首をかしげつつ言う。


「簡単に破れるのであれば、たぶん魔盾の名前はつかないでしょう」

「まあ、そうだろうなあ……」

 ノエルは納得した。


「次に、弟のバリス・デミル。二つ名は炎剣のバリス。剣が長さ十メートルの炎で長くなる、というイメージです」

「十メートル炎の剣か……、それはやっかいそうだな」

 クラウスが考え込むようにして言った。


「炎ですから、重さがなく、剣と同じスピードで動き、剣と同じダメージを与えます」


「魔法には呪文がいるのではなかったっけ?」

 ノエルが質問した。


「詠唱ですね。炎剣の欠点は長い詠唱ですが、ベルナの魔盾で時間を稼ぐようです」

「どういうことだ?」

「デミル姉弟が二人で戦うときは、ベルナがシールドで敵を阻んで、バリスの詠唱の時間を稼ぐ。詠唱の後、炎の剣で敵をなぎ払う。そんな戦い方です」


 クラウスとノエルは、うーん、と腕を組んで考えこむ。


「二人で戦うときは、未だ負け無し、だそうです」


 ノエルは、ほお、と目を上げた。

「だが、アゼリアはずっと戦争もなかったから、しょせんは練習試合だろう」


 ノエルはにっと笑った。

「ま、先手必勝だな」

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