第19話 S級の魔物
枝や根が触手のようにうねうねと動いている。
幹の上の部分に顔のように目が二つあり、額の部分に三番目の目のように赤い玉が光っている。
「出た、S級だよ!」
ノエルがあぜんとして魔物を見上げる。
「パメラ、なんで木が動くんだ……?」
「だから、これが魔物なんだってばさ!」
イエルクは双剣を抜刀して構える。
「これがS級か、さすがにでけえな」
クラウスも抜刀し、ノエルも背中の槍を握り構える。
「ノエル、気をつけろ」
「お前もな!」
アレットもパメラを守るように背後にかばい、ダガーナイフを構える。
枝や根のような触手が伸びてきて四人を襲うが、剣でたたき切り、槍の柄で打ち折られる。
しかし、切られた部分からすぐに新しい枝や根が生えてきて、再度襲ってくる。
「クソ、キリがない!」
双剣を振るうイエルクの表情に焦りの色が出始めた。
「テャー!」
ノエルは気合いを入れて槍を幹に突き刺す、しかし、全くダメージを与えられない。
「くっ、効かん!」
槍を旋回させ、柄で枝や根を叩き折ろうとするが、折りきれない。剣で切っていくクラウスやイエルクを見て舌打ちした。
「こいつ、槍とは相性が悪いな!」
「パメラ、弱点はないのか!」
枝を切り払いながら、クラウスが叫んだ。
「炎だ、強い炎魔法で焼き払って!」
「誰かできるかっ?」
「できるわけねえだろ!」
イエルクが振り返り、アホウと言わんばかりに怒鳴った。
「ノエル、火を吐く技はリン家にないのかっ?」
「そんなもんあるか!」
「アレット、油はっ?」
「ございません!」
会話の間も枝と根の触手の攻撃は勢いを増していく。ノエルの槍の柄に根が巻き付き、動きを止められる。
「しまった!」
顔に向かって、真っ直ぐに根の先端が伸びてくる。
「ノエル!」
クラウスはノエルを抱きかかえるが、根の先端は肩を覆っていた甲冑に突き刺さり、血が吹き出てくる。
「クラウス!」
「大丈夫か、ノエル……」
「ばかやろう、自分の心配をしろ!」
「……たまには格好つけさせてくれ」
痛みをこらえつつ強がりの笑いを浮かべながらクラウスは言った。
ノエルの目が怒りに燃えた。
「アレット、止血!、槍!」
アレットは背中の槍の一本をノエルに投げる。受け取ったノエルは怒りにまかせて枝や根を片っ端から叩き折っていく。
「パメラ、他に弱点はないのかっ?」
アレットに止血帯を肩に巻かれながら、クラウスが叫んだ。
「あの目の間の赤いとこ、アレを砕けば動きが止まる!、しかも破片は宝石として高く売れる!、水がつくと色が変わるから地面に落ちる前に取らないと。今の相場だと……」
「それどころじゃないだろ!」
赤く光る玉は頭の部分、根を足のようにして立ち上がっており、地上から六、七メートルのところにある。
イエルクは見上げて絶望の表情を浮かべた。
「どうやったって、届かないぞ……」
まだ諦めていないクラウスが叫ぶ。
「弓矢はないかっ?」
「ない!」
「アレット、針は?」
「届きません!」
「くそっ……」
ノエルが叫ぶ。
「アレット、短槍!」
「承知!」
アレットは一メートル程度の槍を両手で一本ずつ、ノエルに投げた。両手で受け取ったノエルは、赤い玉に向かって連続して立て続けに投げる。
二本の槍は続けて真っ直ぐに赤い玉に向かって勢いよく飛んでいく。しかし、玉の手前で根の触手に二本ともはじかれてしまった。
「くそ、遠すぎる!」
ノエルは悔しそうにはじかれて落ちていく槍を目で追った。
イエルクがみんなに言い聞かせるように言う。
「ここはいったん逃げよう、次の満月でまた来ればいい」
ノエルはすぐに否定する。
「ダメだ、必ず持って帰る!、フローラが待ってる!」
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