第18話 炸裂する必殺技


 腰ぐらいの高さの草が一面を覆う平地。

 すでに太陽は沈み始めた夕暮れ、魔物達が活動を開始する時間となっていた。


 イエルクが叫びながら、剣が見えないほどの速さで双剣を振るう。

「双龍剣音速斬!」

 二体の一つ目の巨人が断末魔を上げて、胴体を三つにスライスされて崩れ落ちた。


 ノエルに向かって羽の生えた人型の四体の魔物が飛びかかっていた。 ノエルは叫びながら、槍で連続して魔物の額を貫く。

「天山流星百花繚乱煉獄突!」

 四体の魔物はバタバタと地面に落下した。


 クラウスが素早く移動し、剣で稲妻のような軌跡を描かせて炎をまとったオオカミの魔物の胴体を三匹同時に一刀両断にする。

「い、稲妻斬りサンダーライトニング!」

 切断された魔物達が、地面に崩れ落ちる。


 それを見届けるクラウスの顔は、なぜか照れて恥ずかしそうに赤らんでいた。


 イエルクが離れて見ていたアレットを振り返った。

「アレット、どうだ、今度は誰のが一番だ?」


「イエルク様、八十五点。ノエル様、七十点、難しそうな単語を並べれば良いというものではありません」

 ノエルはチェッ、と舌打ちした。


「クラウス様、六十点。稲妻とサンダーがかぶってますし、照れてるのが丸見えです」


「これで、通算、三対一対〇、俺様の圧勝だな」


 得意げなイエルクにクラウスが恥ずかしそうに叫ぶ。

「イエルク、この必殺技命名ゲーム、もうやめよう。お前らやってて恥ずかしくないのか?」

「だって、退屈じゃん。出てくる魔物、雑魚ばっかだし」


 パメラがそんな様子を口をぽかんと開けてみていた。

「雑魚って、みんなA級の魔物なんだけど……、なに、この人達……?」


「パメラー、ラスボスとかいないの?」

 イエルクが退屈そうに叫んだ。


「S級の魔物がいるけど、めったに出てこないし……」

「もう、さっさと取ってさっさと帰って、フローラちゃん治そうぜ」

 

 一行は緊張感無く、ぞろぞろと道を先に進んでいった。




 夜になり、空に大きな満月が浮かんだ。

 丘の上、一面に金色の大きな花が咲き誇っている。


 クラウスとノエルが並んで花に見とれている。 

「これが金満月草か……、使ったことは何度もあるけど、咲いているところは初めて見るな。美しい……」

「ああ、フローラに見せてやりたいな」

「元気になったらフローラを連れてまた来よう」

「それがいい」


 笑顔で会話するクラウスとノエルをパメラがあきれ顔で見ていた。

「あのー、ここ、観光地じゃないんだけど……」


 仲の良さそうな二人の様子を離れたところからイエルクが意外そうに見て、隣のアレットに話しかける。

「あの二人、なんか、いい感じじゃん」

「ふふ、そうですね」


 アレットの視線の先、そっとノエルの手を握ろうと動いていくクラウスの手があった。


「おーい、早く採って帰ろうぜー」


 それに気づかないイエルクが叫ぶと、クラウスの手はサッと引っ込んでしまった。

「気が利きませんね……」

 アレットはイエルクを見てため息をついた。


 

「よし、これでいいだろう」

 摘み取った花を体ほどもあるような大袋に詰め込んで、ノエルは額の汗を腕でぬぐった。


 槍を背負うアレット以外、全員、大袋を背中に重そうにしょって、草原を進んでいく。

「ノエル、こんなにいるのか……?」

 背中の荷物が重そうに、イエルクが聞いた。


「半年分だ。足りないよりはいいだろう。フローラのためだぞ」

「こんなもん、軽いもんだー!」

 イエルクは足取り軽く前に進んでいった。 


 ノエルは隣を歩くパメラを見た。

「パメラのお父さんは、どんな冒険者なんだ?」

「A級の剣士だったよ。一年前に魔物に殺されちゃったけどね」

「……そうなのか。今はお母さんと一緒か?」

「とっくに死んじゃったよ。だから、今は孤児院にいるんだ」


 クラウスがパメラを見た。

「孤児院?」


 その時、そばを歩いていたアレットが異様な気配を感じたように立ち止まった。

「しっ!」


 みんなも足を止めて立ち止まり、息を止めて周囲を見渡す。

「来る!」

 アレットが叫ぶと同時に、足下の土が盛り上がり、腕の太さほどもある木の根や枝が突き出され、続いて全長五、六メートルの大木のような化け物が現れた。

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