第20話 ノエル、宙を舞う


 ノエルは決意を込めた表情で、目標の赤い玉をにらみ、持っていた槍を背中に掛けた。


「アレット、長槍!」


 アレットは地面に置いていた四メートルの長槍を取って、ノエルに投げる。

 パシッ、と受け取り、槍の穂先の手前を両手で握り、二、三歩後ずさりする。そのまま勢いよく前に走っていき、槍の石突きを地面に突き刺し、棒高跳びのように槍の柄を弓なりに反らして、上に跳ね上がる。槍が真っ直ぐに戻ったタイミングで槍から手を放す。


「飛んだ!」

 宙を舞うノエルを見て、クラウスとイエルクは目を見張った。


 ノエルは眼下に目標の赤い玉を見ながら背中の槍を取り、狙いを定める。

 ジャンプの頂点に達して速度が落ちたところを枝の触手が伸びてくる。

 寸前でかわすが、顔と肩にすれ出血する。


 それに構わず、落下しつつ手にした槍の穂先を赤い玉に突き立てた。

 しかし、玉に突き刺さる瞬間にかわされ、槍の穂先は幹に深々と刺さった。


「外した⁉」

 クラウスとイエルクが息を飲んだ。


 アレットがノエルに向かって短槍を一直線に投げる。

「ノエル様!」


 右手で突き刺さっている槍を握り身体を支え、左手で飛んでくる槍を掴んでそのまま穂先を赤い玉に突き刺す。


 ピシッ、とひびが入った後、パーン、と玉がはじけ、破片が地面に落ちていく。


 両隣の目のような光がスーと暗くなっていき、動きが止まった。幹が傾いていき、ノエルは槍から手を放し、巻き込まれないように下に向かって飛ぶ。


 破片を目で追ったパメラが破片を受け止めようとスカートを両手で広げながら、破片が落ちていく方に走って行った。


 ちょうどそこはノエルの着地すべき位置だった。


「バカ!、どけ、パメラ!」


 落ちてくるノエルに驚いて動けないパメラを避けるため、体をひねる。

 足から着地するが、足首をひねってしまい上体が地面に叩きつけられて倒れ込む。


「ノエル!」

「ノエル様!」

 みんなあわてて駆け寄り、ノエルが上体を起こすのを手伝う。


「大丈夫か」

 心配そうにクラウスはノエルの上体を抱きかかえる。


「どうだ、すごいだろ。長槍の使い方、その二だ」

 足の激痛の中、強がりの笑いを浮かべた。


「わかったから、だまってろ」


 アレットが足を手に取り、ひねるとノエルは苦痛に顔をゆがめた。

「大丈夫、折れてません」


 アレットは皮の包みから針を出して、くるぶし、足首、膝下に刺していく。

「痛み止めです」

 不思議そうに見ているクラウスに言った。


 針が効果を発揮したのか、ノエルは一人で上体を起こし、フーと、息を吐いた。

「ひねっただけだ、たいしたことない」


 そんなノエルに泣きながらパメラがすがりついた。

「ごめんよ、あたいのせいで……」


 ノエルは笑いながら優しくパメラの頭をなでる。

「斬る突くだけでは無理だな。お前の言う通りだ」


 えっ、と言う顔でパメラはノエルを見た。

「次回はもっとバランスを考えてパティー組むから、その時はまた案内してくれ」 

「うん!」


 泣き止んだパメラはニッコリと笑った。

 そんなやりとりをクラウスは優しい笑みを浮かべて眺めていた。


 アレットが周囲の気配を調べている。

「ここで朝を待ちましょう。今襲われたら、ひとたまりもありません」



 中心にたき火をたいて、一同は輪になって休んでいる。

 肘枕で既に寝入ったイエルク。

 眠ってしまったパメラを抱っこしたアレットが目を閉じている。


 ノエルは足首を痛めた方の脚を伸ばし、反対の脚で肩に包帯を巻いているクラウスに膝枕をしている。


「痛まないか?」

「ああ。出血が止まったから大丈夫だろう」

「あんな攻撃、わたしはかわせたぞ」

「かもしれんな。それでも、お前は女で俺は男だ。当然だろう」


 ノエルはフフッとうれしそうに笑った。

「……そうだな。すまぬ」


 ノエルはクラウスの包帯の上に手を置き、クラウスを見つめる。

「ありがとう……」


 クラウスはノエルの素直な態度を、おやっと言う顔で意外そうに見た。


「帰ったら傷の特効薬を作ろう。秘伝の薬がある」

「期待してるぞ」

 そんな二人の様子をアレットは薄目を開けて眺めていた。


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